ひとしきり私を嬲ったあと、依央は優しく私を抱きしめた。さっきまでの行為が嘘だったかのような彼の手つきに困惑する。
息を整えながら彼を見つめると、どうした? と彼が優しく私の頭を撫でてくる。顔が熱くなってくるのが恥ずかしくて、彼の胸に顔をうずめると、彼は笑いながらごめん、と軽い口調で言った。
そんな、そんな幸せを感じてはいるけれど、私の心にはひとつ、影が差している。私の中を渦巻く衝動が、もうそこまで出かかっている。
依央と一緒に壁にもたれている。同じブランケットを膝にかけた私たちがふたり、情事の気配を残しながらうっすらとそこに存在していた。
左側に座る依央が、私の左手に右手を絡めた。私はそっと、彼の手を握り返す。
「……ねえ、依央」
「ん、」
「前に話したこと、覚えてる?」
「何の話?」
「……夢の話」
夢って、眠ったときの夢? と彼が尋ねてくるので、私は首を横に振った。
「将来の夢の話」
「……ああ、何となく覚えてるけど」
彼が私の手を強く握った。あのとき私が言った言葉を覚えているなら、話は早かった。
「いつだったかな。幸せって、定義することは難しいけれど、自分が今幸せだっていうことは、その瞬間になればわかるって、依央が教えてくれたよね」
「そんなの、いつ言ったっけ」
「依央が助けに来てくれたとき。校舎裏で」
うわ、そうだったかも、と彼が空いている方の手で頭を掻いた。私は、繋がれた手をぼうっと眺めた。
「私はね、今、一番幸せなの」


