須藤さんが尋ねてきたのは、私が体育の時間なのに制服を着たままである理由だった。
「あ、えと、」
「……ごめんね、あのときの」
「……」
須藤さんが私の顔から目を離して、遠くの方を見つめた。彼女の視線の先で、みんながグラウンドで授業を受けている。先生の話を聞いているみんなの姿が、視界の端で蠢く。
なんとなく、彼女の隣に座った。私たちの間には距離がある。
手持ち無沙汰になって、先生から手渡されたレポート用紙に記入しようとすると、隣から、まじめだね、と声が聞こえてきた。須藤さんの手元を見ると、彼女のレポート用紙は白紙のままだった。
「……あたしのジャージ、嫌じゃなければあげようか。予備の持ってるから」
「大丈夫です。夏目先輩が新しいの買ってくれるらしいので」
「……そう」
その言葉を発してから、彼女の前で夏目先輩の名前を出さない方が良かったかも、と思った。けれどそんなの後の祭りで、須藤さんの表情は明らかに暗くなった。
須藤さんはそのまま押し黙ったあと、遠くを見つめながらぽつりぽつりと、言葉を発しはじめた。
「あたしと先輩との話は、イオからもう聞いた?」
「……はい」
「そっか、」
相変わらず須藤さんとは目が合わない。私は彼女の方を見るのをやめて、同じようにグラウンドの様子を眺めていた。もう今更、レポートを書く気にはなれなかった。
「あの話って、やっぱり……」
「全部、本当のこと」
「……ごめんなさい」
「やめてよ。あたしが悪かったんだから」
彼女の声色からは生気が抜けている。向こうで男子がはしゃぎながらサッカーボールを蹴っている。今、彼女の視線の先には誰がいるのだろうか。


