性、喰らう夢




 依央、と呼びかけた言葉は彼の胸の中に吸い込まれていった。

 依央はずっと、私の頭上で、ごめん、とうわごとのように呟いている。彼が何に対して謝っているのか、あまりよくわからなかったけれど、彼を怒らせてしまったわけではないということに、そして彼の体温に、少しだけ安心している自分がいる。



「ごめん、こんな状況なのに」

「依央は、何に対して謝っているの?」

「だから、お前がこんな状況なのに、と思って」

「答えになってないよ……」



 彼の胸に頭を強く押し付けられていて、息が苦しかった。けれど、何故かそのままが良いと思ってしまう。



「怒ってるわけじゃあ、ないんだよね?」

「そりゃ、もちろん」

「じゃあ、どうして……」

「また、ちゃんと言うから」

「……うん」



 嫉妬だったらいいな、と思った。彼が私のことを、方便じゃなく、本当の意味で好いていてくれたら、なんて。

 心なしか心臓がどくどくと脈打っている。彼と触れ合う肌がいやに熱くて、緊張してしまう。

 なのに、どうしてかわからないがさっきよりも安心していた。いつの間にか手の震えは収まっている。

 最近、自分が変になっている気がする。

 あんなに近かった夏目先輩とか、祥平、それに綾人くんに対しては感じたことのなかった気持ちを、依央に対して抱いている、と思う。これまで生まれたことのない感覚にすこし、戸惑ってしまうけれど。


 なんだか、身体が暖かくなってきた。眠れそうな予感がした。

 ゆっくりと、彼に包まれながら瞼を下ろした。もう私には、依央だけでいい。




第4章 変性 end