電話を切ってから30分くらい経った頃、外から人の足音が聞こえてきた。私も依央も、それが綾人くんのものであるとわかっていた。
その足音が部屋の前で止まる。足音の主は、そのまま少し止まって、少し迷ったような様子を見せた後、そっと3回、ノックをした。彼は私の家に来慣れていないから、インターフォンがないことに戸惑っていたのだろう、と何となくわかった。
彼のノックの音を聞いて、依央が先に立ち上がった。私も彼の後ろをついていく。一歩一歩が重くて、うまく前に進めない。けれど、着実にそれはやってくる。
あっという間に玄関に着いたと感じてしまうのは、きっとこの家が狭いせいだ。
彼がドアを開くと、綾人くんが紙袋をひとつ携えて立っていた。前よりも少しやつれた様子の彼が、先に口を開く。
「……はじめまして」
「……どうも」
2人の間に流れる無言の間がこわかった。依央の後ろに隠れながら、彼らの様子を伺う。
3人の視線が絡み合う。特に綾人くんの方は、私と依央の顔を何度も見比べていたが、その瞳の中に内包されている感情は、読み取れなかった。
そのうち、綾人くんの方が手に持った紙袋を依央の方に向けた。これ、申し訳なかったです、といつにもなく敬語なんかを使ってみせる綾人くんがすこし不気味に思える。
依央は、どうも、と言ってその紙袋を受け取った。
そして、私の方をちらり、と見てから、彼はそのまま私を置いて、奥の方に引っ込んでしまった。
彼がどうしてそんな振る舞いをしたのか、そんなことは推測でしかわからない。依央は私に何を期待して、ここに私だけを残したのだろうか。
2人になる。彼が何を言うのか、彼が私に何をするのかがわからなくて、身構えた。
綾人くんがじっと私の顔を見つめている。
「悪かった、本当に」


