「はじめまして。俺、この子の彼氏なんですけど」
開口一番にそんなことを言う依央に驚いたのは私だけじゃなかった。綾人くんはその場で、は? と気の抜けた声を発する。
『お前、彼氏なんていたっけ?』
「……いた、最近だけど」
『……そう』
綾人くんが依央の言葉をどう解釈したのかは、電話越しにはわからなかった。半分疑っていて、半分信じているくらいかもしれない。
綾人くんが私による肯定を受けて黙りはじめたのを皮切りに、依央が言葉を覆い被せてくる。
「それで、正直言いますけど、もうこいつに手出さないで欲しいんです」
『……』
「だから、もう連絡とか、やめてもらえますか?」
じゃあ、と言って依央が電話を切ろうとする。けれど、綾人くんがまだ何か言いたそうにしていたので、私は依央の右手首を握って、依央を制止した。
依央は、私に対して不思議そうな顔を向けたけれど、特に抵抗することもなく、その手を下ろした。
「綾人くん……どうしたの」
『……ジャージとか、他の荷物、返そうと思って』
どうせ、もう会うタイミングないだろうから。と電話の向こうの彼が呟く。
綾人くんの家にいたとき、そういえば依央のジャージを取られたままだった気がする。彼のことだから、とっくに処分しているだろうと思っていたけれど、どうやら彼はそれをまだ持っていたらしい。


