私と祥平とのやり取りを黙って聞いていた依央が、口を開く。
「こいつもそう言ってるし、そういうことだから」
じゃあ、と言って依央が私から腕を離し、その手を私の左手に絡めた。所謂恋人繋ぎ、というものかもしれない。あえて祥平にそれを見せつけようとしているのだろう。
彼の大きい手に包まれると、すこしだけ恥ずかしいような気がしてくる。私はそれを悟られないように、できるだけ平然を装った。
依央はそのまま、私を連れてその場を立ち去ろうとした。
「待てって、」
けれど、祥平がそれを許してくれなかった。私の空いている右手を、彼が掴んでくる。
「俺は、ずっとお前のためと思って、ずっと」
祥平が必死になって私に縋りついてくる。
その顔を見ていると、また心臓が痛み出した。
学校を休んだ日、体調が悪い日、貧血で倒れたあの日も、私の健康を考えて食事を振る舞ってくれたのは確かに祥平だったのだ、と今更になって思い返す。
「いいから、行くぞ」
その場で立ち止まる私を、依央が急かしてくる。依央が私の左手を、強く握っている。
「祥平、ごめん……」
祥平の優しさに、何度も甘えた。それなのに私は、彼から与えられる恩恵を、時にはうざったく感じることもあった。
彼から迫られたとき、あるいは彼を逆上させてしまったとき、私は彼に嫌悪感を覚えたけれど、きっと彼の態度は至極当然のものだったのだ。私が、彼の気持ちを踏みにじったのかもしれない。
今までありがとう、とは言えなかった。それよりも先に、依央が私の手を引いたからだった。その後の祥平の顔を、私は見ることができなかったし、見たくなかった。
多分、祥平が話しかけてくることはもうないだろう、と思った。


