耳にその柔らかな音が入り込んだとき、祥平がその手にかける力を弱めた。その隙に、私は彼の手を振りほどき、彼と距離を置く。
それと同時に、先ほどの人影が、私と祥平との間に割って入って来た。私には、それが、いや、彼が誰なのかわかっていた。
「依央、どうして」
「……」
依央は私からの問いかけに答えてくれなかった。その代わりに、彼は祥平の方を向き直って、力強い口調で言葉を放った。
「こいつに何か用?」
高身の依央が発するその低い声色には威圧感があった。多分それを祥平の方も感じているようで、彼は引き攣った顔で口を開く。
「別に、依央くんに言うようなことは何もないけど」
ていうか、それはどちらかと言えばこっちの台詞なんだけど、と祥平が続ける。私は彼らの押し問答が怖くて、そっと依央の後ろに隠れた。
それを見て、祥平はすこし機嫌の悪そうな顔をしてみせる。私はそれに気づかないふりをして、地面の方を見た。
依央は祥平からの問いかけに対して、間髪を入れずに答える。
「こいつ、俺のだから、もう関わんないでくんない?」
夏目先輩の時と同じ手段だった。私はその発言の信憑性を強めるために、あえて依央の制服の袖を掴んでみせた。
彼の言葉が、祥平から私を引きはがすための方便だということはわかっている。わかっているはずなのに、なぜかすこし苦しい。


