性、喰らう夢







 依央と朝食を摂り終わったあと、さすがに一旦帰る、と言って、彼は部屋から出て行った。

 物惜しげに彼を見つめると、どうせ後で学校で会うだろ、と彼が笑ったので、私は頷きながら彼を見送った。


 そんな言葉を交わした手前、学校に行かないわけにはいかなかった。申し訳程度のシャワーを浴びてから、私は依央のお姉さんから借りた制服に身を包んで、ひとり学校に向かった。



 何ということもなかった。下駄箱もロッカーも、机の中も、何も異変はなかった。皆が私を腫れ物扱いしているというのは、以前から変わらないけれど、別にそんなの、今更大した問題じゃなかった。

 けれど、何も異変がなかったとしても、少し前までロッカーの中に入っていた虫の死骸の残像が頭の中にちらついて、嫌な感じが腹の奥底から湧き上がってくる。

 あのときの記憶は、私にとってやっぱり、ショックなものだったのだろう。仕方なく、私はその嫌悪をそっと胸の奥に押し込めた。


 ちなみに今日、須藤さんたちからの呼び出しはなかった。須藤さんは、体調不良でしばらく学校を休んでいると、誰かが言っているのを聞いた。

 何度か、内田さんと目が合った。眼鏡の奥からこちらを見つめてくるその目がすこし怖かったが、目が合うだけで、私たちが言葉を交わすことはなかった。

 不自然なほどに何もない一日に困惑した。嫌がらせを受けることのない、ただひたすらに平凡で、普通の生活。そんな状態に慣れなくて、そわそわとした。



 けれど、やはり何もないということにはならないらしい。



「なあ、お前」



 ひとり、帰宅しようとして下駄箱から靴を取り出す私に話しかけてきたのは、祥平だった。

 途端に、いつもの嫌な感じが湧き上がってくる。