性、喰らう夢



 依央はそのうち、私の髪の毛で遊ぶのに飽きてしまったのか、その手をぱっと離して私に向き直った。



「お前は、将来やりたいこととか、夢とか、考えたことある?」

「夢……」



 彼の言葉に、少し頭を悩ませた。

 将来やりたい仕事も、勉強したいことも、何も想像がつかないからだ。想像できないものに対して、それがいいとか悪いとかいう価値判断なんかできるわけがない。

 けれど、ひとつ、私の頭の中に浮かんでいるものがあった。

 私の生き方として、ずっと心の奥底から刻み込まれているあの願望。一般に受け入れられないかもしれない、所謂、かの有名な精神分析家のフロイトの言う破壊衝動みたいな何か。



「私、幸せになりたい」

「……」

「それ以上にないくらいにうんと幸せになって、そして、」



 その絶頂期に、そっといなくなりたい。と言った。


 ああ、フロイトが言っていたのは死への衝動だったか。人間の内から溢れ出た死への衝動が、動物種に備わる生存本能と拮抗してしまうから、死への衝動を外部に転化して、人は攻撃行動をとってしまうと、何かで見聞きした気がする。

 けれど、私の場合は少し違う。最も良い形の、もっとも綺麗な形の破壊を求めているのだ。

 どうやら私は、三大欲求どころか、人間として、動物として、生物としてもっと大きい欠陥があるのかも知れないらしい。



「なあ、お前、本気で言ってる?」

「……」



 黙って彼の瞳を見つめる。彼は私の無言を肯定と解釈したようだった。