依央はまだ何かを言いたそうな顔をしていたが、震える私を見て、口を閉ざした。彼は身体を起こして、体勢を立て直している。
「もういい……私は被害者だったし、加害者でもあったの。須藤さんだって、そうでしょう? だから、どっちも悪かったし、どっちも悪くなかった、ってことじゃ、だめなのかな」
「……そうだよな」
ごめん、と言って依央は私の肩に落ちる髪の毛を人差し指で掬い上げた。綾人くんとか、夏目先輩みたいに安易に私の肩を抱いたりしない依央のちょっとした配慮を指先から感じて、何故だか胸が苦しくなる。
それでも、私と須藤さんがお互いに対して加害者であり被害者であったとしても、私を深い地獄の底から救い上げてくれたのは依央だったのだ。
依央、と彼の名前を呼ぶ。彼が何か言うよりも早く、私は横に並ぶ彼の肩に頭を預けた。彼は抵抗することも、嫌がることもせず、ただその視線の先にある壁を見つめているようだった。
「わたし、もう依央のことしか頼れないのかも」
「いいよ、何でも」
「……」
私たちの間に沈黙が流れる。気まずさとかそういった感じは特にしなかった。頭の先に感じる依央の体温に心を溶かしながら、私はただ、頭の中を巡る思考の波を、ぼうっと俯瞰していた。


