綾人くんの名前を見るだけで、恐ろしいほどに無機質なあの部屋を思い出して、気が狂いそうになる。
それと同時に、強迫観念のままに勉学に励む彼の姿と、帰宅した後に私を見て嬉しそうな顔をする彼の姿がぐちゃぐちゃに絡まって、罪悪感のような、それともあの場所から逃れられた安心感のような、そんな普通なら交わることのない感情が複雑に層を成して私の中に発現した。
私はスマホを持ち上げて、メッセージアプリを立ち上げたが、その画面を見て、何もせずにスマホをテーブルの上にそっと戻した。
ありえないくらいに大量のメッセージが届いていたからだった。
ごめん、とか、帰ってきて欲しい、とか、そんな彼の苦痛が細切れに際限なく連なっていたのだ。
急に、重荷を感じる。彼を置いてあの場所から出て行った私が悪かったのだろうか。あれもこれも、私のせいなのだろうか。
綾人くんに対する熱は完全に醒めていた。いざ彼に触れられたときにどうなってしまうかはわからないが、今は特段、彼と身体を重ねたいとは思わない。
すこし思い直して、私はもう一度メッセージアプリを操作し、彼から届いたメッセージを既読も付けずに削除した。これ以上、何も見たくなかったからだった。
スマホを放り投げる。どこまで行っても私が無責任だったということは変わらないらしい。けれど、今だけは何も考えず、依央の来訪だけを心待ちにしていたい、というのは、わがままなのだろうか。


