性、喰らう夢




 やっと、状況が掴めてきた。

 まず、私は依然として綾人くんの家の玄関にいた。けれど目の前には依央がいて、彼が私の肩を抱いている。

 手の拘束は外されている。視界の端に、結束バンドの残骸が転がっているのを見て、依央が外してくれたんだ、と理解した。



「依央、今何時……?」

「15時。そろそろ出ないと。立てそうか?」

「たぶん」



 依央に支えられながら、上体を起こす。薬が残っていたのかはわからないが、すこしだけ頭が痛かった。

 手を動かして、身体の感覚を確かめる。いつの間にか、柔らかい黒のスウェットが着させられていて、布同士が擦れるたびに、あたたかい香りが漂ってきた。



「とりあえず、出るぞ」

「待って」

「なに?」

「スマホ、スマホがずっとないの」



 依央にそう訴えると、彼は自分のポケットから、ケースのつけられていない剥き出しのスマホを取り出して、画面を操作し始めた。

 多分、私のスマホに着信を入れているんだろう。

 けれど、部屋の中からは何の音も聞こえてこなかった。何日もスマホに触れていなかったから、きっと充電がなくなっているのかもしれないし、そもそも綾人くんがあのスマホの電源を切っていたり、壊していたり、あるいは持ち歩いている可能性もある。

 諦め半分に視線を宙に漂わせると、依央はため息をつきながら、土足で部屋の中に入って行った。