「……これ聞いたら連絡頂戴。できれば今日会って話がしたい」


 留守録には一応入れておいたけど、やっぱり忙しいのか、何度電話をかけても彼女がとることはなかった。


(……待ってるだけじゃ、今と何も変わらない)


 駅の改札口で静岡方面行きの時間を確認しようと足を向けると、ロータリーの方からクラクションの音が。
 何かあったのかと、オレは野次馬根性で来た道を慌てて戻る。


「……つかまえた」

「え?」


 その途中で何故か、小さな女の子がオレの足にしがみつくように突撃してきた。……しかも今、捕まえたって言った?


(……この子、どっかで見たことある気が)


 そう思っている間に、何気に力持ちの女の子は、こっちに来てとオレを引っ張っていく。


「ととー! つかまえたー!」

「よーしよくやったしー! ご褒美に今日はドライブに連れて行ってやろう!」


 オレは、反射的にその場から立ち去ろうとした。
 勿論、車から伸びてきた腕に、早々行く手を阻まれてしまったけれど。


「逃げるなんて、酷いんじゃないかな九条くん」

「逃げたんじゃありません、避けたんです」


 今……というか、一生会いたくない人に会ったら、誰だって同じ反応をするだろう。
 あー嫌なもん見た。やっぱり今日は、あおいに会って癒やされることにしよう、そうしよう。


「……じょーくんもいっしょにどらいぶ?」

「じょ、じょーくん……?」

「いいね! ささ、九条くんどうぞ。帰りはもちろん家まで送るよ」

「いえ、オレは今からちょっと……」


 ぐいぐいとオレの服を引っ張る女の子が可愛くて、思わず頭を撫でるとくすぐったそうに笑った。どうやらオレも、あいつにだいぶ影響されたらしい。


「残念だけど、花咲さんちに行っても、葵ちゃんには会えないよ。勿論朝日向さんちもね」

「は? なん、で」

「知りたかったら車に乗るといいよ。別にいいなら、君は一生知らないままでいることになるだろうけど」

「…………」


 そう言われたオレに、乗る以外の選択肢はあったのだろうか……。