すべての花へそして君へ②


 何でこんなにもこいつのことが癇に障るのか。……なんで嫌な感じがするのかはわからない。もしかしたら過去、あおいがマサキさんのことを『年上でかっこいい』みたいなことを言っていたからかも知れない。


「……ふっ」

「……っ!」


 そういう、年上要素というもの。たとえば大人の余裕だったり、女の扱いだったり。そういうのをオレは持ってないから。こいつは持ってるから。だからこんなにも一人で焦って、イライラして、……不安で仕方ないのかも知れない。


「ひ、ヒナタくん……? ちょっと落ち着い」

「言っときますけど」


 ――うん。これは完全に嫉妬だ。
 みんなにもするけど、なんだかんだでみんなの優しさにオレは安心してた。甘えてた。だから、妬いたとしても狂ったりするほどのものではなかった。
 けど、こいつは違う。そんなもの関係ない。


「なにかな」


 昼間、初めて会って話しただけだというのに、あおいが何か惹かれるようなものを、こいつは持っていたんだろう。だからあのとき、目の前にいるオレじゃなくて、こいつがいる海の家の方に、あおいは意識を向けていたんだ。……無意識に、掴まれた手首を握っていたんだ。
 だから、オレは――――。


「こいつが好きなのはオレなんで! もうちょっかい出してこないでください!」


 こんなにもみっともなく、こんな懇願みたいなこと言って。バカみたいに必死になって。離れたくない一心で、こいつにしがみついてるんだ。


「ああうん。そうみたいだね。もう出さない出さない」

「……は、はあ?」


 そんなオレの必死さも空しく。こいつはさらっと、なんか受け流しやがったんだけど。


「ははっ。いやあ、まさか二人揃って同じこと言うなんてね」

「……え?」

「取り敢えず腕の力抜いてあげたら? 彼女苦しそうだから」

「えっ、あ」


 バカみたいなことを口走った拍子に、腕の中に閉じ込めたこいつのことすっかり忘れて――「ぷはっ!」……え。そ、そこまで……?


「葵ちゃん顔真っ赤だねえ?」

「こ、れは。……全部彼が悪いので」

「何が悪かったのかな? さっき言ったこと? それとも腕の強さとか?」

「ぜっ、全部です全部……!!」


 暗闇の中。街灯に照らされたこいつの顔が、やけに赤く見える。
 それが移ったのか、少し冷静になれたのか。今度はオレの体温までもが一気に上昇した。


「……可愛いカップルさんだね?」


 ……あっつ。