何でこんなにもこいつのことが癇に障るのか。……なんで嫌な感じがするのかはわからない。もしかしたら過去、あおいがマサキさんのことを『年上でかっこいい』みたいなことを言っていたからかも知れない。
「……ふっ」
「……っ!」
そういう、年上要素というもの。たとえば大人の余裕だったり、女の扱いだったり。そういうのをオレは持ってないから。こいつは持ってるから。だからこんなにも一人で焦って、イライラして、……不安で仕方ないのかも知れない。
「ひ、ヒナタくん……? ちょっと落ち着い」
「言っときますけど」
――うん。これは完全に嫉妬だ。
みんなにもするけど、なんだかんだでみんなの優しさにオレは安心してた。甘えてた。だから、妬いたとしても狂ったりするほどのものではなかった。
けど、こいつは違う。そんなもの関係ない。
「なにかな」
昼間、初めて会って話しただけだというのに、あおいが何か惹かれるようなものを、こいつは持っていたんだろう。だからあのとき、目の前にいるオレじゃなくて、こいつがいる海の家の方に、あおいは意識を向けていたんだ。……無意識に、掴まれた手首を握っていたんだ。
だから、オレは――――。
「こいつが好きなのはオレなんで! もうちょっかい出してこないでください!」
こんなにもみっともなく、こんな懇願みたいなこと言って。バカみたいに必死になって。離れたくない一心で、こいつにしがみついてるんだ。
「ああうん。そうみたいだね。もう出さない出さない」
「……は、はあ?」
そんなオレの必死さも空しく。こいつはさらっと、なんか受け流しやがったんだけど。
「ははっ。いやあ、まさか二人揃って同じこと言うなんてね」
「……え?」
「取り敢えず腕の力抜いてあげたら? 彼女苦しそうだから」
「えっ、あ」
バカみたいなことを口走った拍子に、腕の中に閉じ込めたこいつのことすっかり忘れて――「ぷはっ!」……え。そ、そこまで……?
「葵ちゃん顔真っ赤だねえ?」
「こ、れは。……全部彼が悪いので」
「何が悪かったのかな? さっき言ったこと? それとも腕の強さとか?」
「ぜっ、全部です全部……!!」
暗闇の中。街灯に照らされたこいつの顔が、やけに赤く見える。
それが移ったのか、少し冷静になれたのか。今度はオレの体温までもが一気に上昇した。
「……可愛いカップルさんだね?」
……あっつ。



