カッポ――ンッ!!!!
『いってええッ!!』
『ああごめん。手が滑った』
投げた洗面器がちょうどよくツバサの後頭部に当たってしまった。
『『ナイスコントロール』』
いやいや、狙ってませんって別に。ええ、べ・つ・に。
どうやらお揃いのものはクマのキーホルダーらしい。取り敢えず、今度あおいの家に行ったらクマらしきものは持って帰ろう。
(……3時、か……)
男子陣は昼間からかなりはしゃいでいたせいか、日を跨ぐ頃には一人、また一人と死んだように眠りについていた。あのトーマでさえ、今はあどけない顔で眠りについている。
(……大丈夫かな)
昨日の今頃は、本当につらそうな顔で痛みに耐えていた。朝はもうけろっとしてたし、君貧血気味なんだから人助けでも無茶すんなよとは思ったけど。……でも、取り敢えずは元気そうでよかった。
(さすがに、この時間に会いに行ったら迷惑だよね……)
女子同士で盛り上がってるかも知れないし……みたいな。電話だけでも……って、寝てたらそれこそ迷惑か。
(いや、寝てる可能性は低いか)
昨日のあの惨状。そこであいつが眠れるわけないし、寝られなかったらそれこそオレを頼ってくる……いや、待て。
(あいつが人を頼るのが一番苦手だってことすっかり忘れてた)
だったらあいつが取る行動は……? オレなら、昨日の部屋に行く……かな。
(本当に苦しんでるとき以外でも、ちょっとしたことでもいいから頼って欲しいんですけどね)
まだそうと決まったわけじゃないけれど、今日も目が冴えてしまっているから、トイレへ行くついでにあの部屋のこともフロントに聞いてみよう。
そう思って起き上がり、窓の外に視線を移したときだった。
「は? ……ちょ。なに、して……っ!!」
――――――…………
――――……
「――っ、あおい……!!」
叫んだ自分の、余裕のなさに。必死さに。……バカみたいだと、鼻で笑った。
「……あ、れ? ヒナタくんっ!」
形振り構わず、走って走って走って。息も整わないまま、バカみたいに叫んで。
「……はあ。はあっ」
……はは。ほんと、どんだけ必死なんだ、オレ。
「ヒナタ、くん?」
「……な、に。やってんの」
窓から見えたのは、あおいと……もう一人。
「こんばんは。弟くん?」
昼間に会った、……確かシズルって男。
「……彼氏だっつってんだろ」
オレの、いちいち癇に障る奴。



