あの噂に隠された運命に涙する

「良かったら、上がっていってください」
「はい。おじゃまします」

有村くんのお母さんに導かれて、リビングに向かう。
あたしたちが席に座ると、有村くんのお母さんはトレイにお菓子と紅茶を乗せて、テーブルに並べる。
思えば、不思議な星まわりだ。
有村くんの両親がいて、そこには笑顔が溢れていて、その輪の中にあたしたちもいる。

「おいしい」

あたしは紅茶を飲んで一息つく。
だけど、有村くんの家を訪れた当初の目的を思い出し、有村くんに訊いた。

「有村くんはこれからどうするの?」
「……僕はここに残りたい」

あたしの質問に、有村くんは少し躊躇いつつもそう答える。

「現実世界に戻らなくていいのか? 『スムージーラリア』で起きた出来事は、現実世界でも反映される。有村くんをいじめていた奴らはきっと、現実世界でも後悔していると思う」
「あいつらが後悔してもしなくても、どうでもいい」

高見橋くんの素朴な疑問に、有村くんは本音を吐き捨てた。

「……僕は今まで、人と関わっても仕方ないと思っていた。だって、傷つくだけだから」

有村くんは噛みしめるようにつぶやく。

「それなのに、『スムージーラリア』の人たちは、初めから僕のそばにいた。みんな、来たばかりの転移者の僕のために、必死に力になろうとしてくれた。……すごくすごく嬉しかったんだ」

そんな言葉じゃ足りないくらい、ありがとうしかない。
そう言いたげに、有村くんは前を見つめた。

「……僕は、この世界の人たちが大好きだ。みんな、僕に生きがいをくれた大切な人たちだから」

この世界にきた時よりもぴんと伸びた背筋も、まっすぐな瞳に映された希望も。
なによりも、それら全てが、これより先を進むことを決意した有村くんの覚悟の(あらわ)れのようで。

「この世界が、僕の居場所。帰るべき場所なんだ! だから、現実世界には戻らない!」

そう告げる有村くんの表情は、どこまでも迷いがなかった。
今は小さな光でも、いつか立ち向かう力となる……そんな自信をくれる瞳。
それは今の自分を認めてあげるための、勇気の輝きだった。