あの噂に隠された運命に涙する

……頭がおかしくなりそうだ。
少しも、状況が理解できないから。

「高見橋くん、これって一体!?」

自分の置かれた状況に混乱し、あたしは藁にもすがる思いで叫んだ。
そして、すがりつくように左手を伸ばす。
しかし、その手は高見橋くんに触れることはなかった。

「うわあっ! なにこれ!?」

想定外の事態に、思わず飛びのく。
あたしの手が、高見橋くんの身体をすり抜けたような気がしたからだ。
肩に触れたはずなのに、何の感触もなかった。
もう一度、挑戦してみる。
伸ばした手はやはり、高見橋くんをすり抜けた。
高見橋くんだけではない。
ベッドのサイドフレームにも、カーテンにも、ドアにも、何にも触れることができなかった。

「ど、どうなっているの?」

どうしたらいいのか分からず、あたしはうろたえる。
まるで、ゲームの仮想現実の世界にでも入り込んでしまったみたいだったから。
見えているものすべてが、VRゲーム内の映像で、本当はここには何もないかのようだ。
もしくは、あたしが本当は、ここにはいないかのようで。
ただ、無言で立ち尽くすしかなかった。
一体、何が起きているのか。
どうなってしまったのか。
何ひとつ、分からなかったから。

「落ち着いて、神楽木さん。これから説明するから」

すがれるのはもはや、高見橋くんしかなかった。