あの噂に隠された運命に涙する

「あ、こちらの事情です。その、これからお付き合い……よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」

ぺこりと頭を下げると、高見橋くんは気さくな笑みを浮かべてくれた。
片思いしている相手がスペア。
あまりにもできすぎているから、まるで幻のようで。
本当に現実なのか。
実は、あたしが見ている夢か何かじゃないのか。
思ってしまうけれど。

「これから、いろいろと大変だと思うけれど、俺がそばにいる。力になるから!」

高見橋くんの笑顔は、夢なんて言葉では片付けられないほど、光に満ちていた。
まるで夏を丸ごと閉じ込めたようで、とてもまぶしい。

「……うん。ありがとう」

あたしは改めて、自分の現状について振り返ってみた。
くるりと辺りを見回す。
不思議なことに、身体に痛みはない。
自分の手足を動かしてみても、どこも不自由なところはない。
目覚める前までは、確かに身動きが全く取れなかったはず。
それなのに、ベッドに寝かされることもなく。
それどころか、こうして突っ立っていても、平気なくらいだ。

どうなっているんだろう?

視線をさまよわせていると、不意にあるものが目に映った。
ベッドのヘッドボードに掲げられたネームプレートだ。
何度、目を凝らしても、そこには『神楽木芽衣』と書かれている。
ということは、ここは恐らく、あたしが入院している病室の中なのだろう。
それなのに、死にかけたはずのあたしはベッドの近くで突っ立っていて。
代わりに、ベッドの上にいるのは高見橋くんだった。