あの噂に隠された運命に涙する

スペアのことを知っているということは、あの噂について詳しいのかも。
……なんて、考えに至ってしまったが。
どうやら、あながち間違いではないようだ。

「噂で聞いたことがあるかもしれないけれど……」

ベッドの上に座っている高見橋くんは、そう前置きして話し始める。

「スペア総合病院。この病院で亡くなりそうになった時、『スペアに会いたい』と願うと、自分と瓜二つ、つまり、そっくりな姿をした分身、『スペア』が現れて、願いを叶えてくれる、ってやつ。聞いたことある?」
「もちろん」

あたしの即答に呆気に取られつつも、高見橋くんは話を続けた。

「……そっか。なら、話は早いな。それで俺、今日から神楽木さんのスペアになることになったんだ」

鈴が鳴るような、透きとおる、きれいな声。
そんな声音で、高見橋くんはそう切り出した。
それはあの噂に詳しいという告白よりも、さらに突拍子のない事実だった。

「高見橋くんが、あたしのスペア? やったー!」

あたしはぐっとガッツポーズして、感極まったように雄叫びを上げた。

「はあ……?」

あたしの剣幕に、高見橋くんは思わず、唖然とする。

「いや、だって、高見橋くんは、あたしのす――」

思わず言いかけたわたしは慌てて、口を覆った。
反射的に一歩、後ずさる。
周りを確認してから、高見橋くんをおそるおそる見た。