あの噂に隠された運命に涙する

現実世界に戻り、朝の診察や検査などを終えた後。
病室で朝ごはん。
あたしの大好物のオムライスがあるけれど。
当然、あたしは食べられない。
幽霊の身を恨むのはこんな時。
『スムージーラリア』の世界では、普通に食べられたからなおさらだ。
じっーと物欲しそうにしていると、高見橋くんはぽつりとつぶやいた。

「……神楽木さんは何も聞かないんだな」
「えっ……?」

あたしは思わず、きょとんする。

「俺のこと、スペアのこと……」

振り返ると、高見橋くんは少し言いづらそうな顔をしていた。

高見橋くんのこと。
スペアのこと。
聞く機会はたくさんあったはずなのに、どうして聞かなかったんだろう。

頭の中で必死に整理していると、一つ確実なことを思いつく。

「だって、高見橋くんが、あたしのスペアになってくれたから」

そう答えた途端、どくん、と胸が音を立てる。
ふと気づいた。
きっと、『この胸の高鳴り』が答えだ。

「慌てて聞かなくても、今すぐ高見橋くんのことが分からなくても、高見橋くんはあたしと一緒にいてくれる」
「神楽木さん……」

あたしの名前を呼ぶ高見橋くんの姿に、じんわりと涙が浮かぶ。

「せっかく、高見橋くんが隣にいてくれるのなら、このまま、ゆっくりがいい」
「ありがとう」

高見橋くんの笑顔は、まるで羽が生えているみたいに自由で優しい。
高見橋くんはいつだって、わたしの世界を彩り溢れるものだと教えてくれる。
出会ってからずっと。
いつか、その先のあなたを知れたらいいな。