この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

お盆休みが終わり、凜香が会社に行く日がやってきた。

「凜香、車で送る」
「いえ、電車で行けますから」
「いや。鮎川社長とも話をすることになってるんだ」
「そうなんですね? 社長から聞いてなかったです。スケジュール大丈夫かな」
「時間は取らせない。すぐに引き挙げるから」
「わかりました」

二人でワンアクトの本社に向かい、社長室に行くと、既に鮎川は出社していた。

「おはようございます、社長」
「おはよう、深月さん。体調はどう?」
「はい、おかげさまですっかり元通りです」
「そう、よかった。くれぐれも無理しないように」
「ありがとうございます」

そして社長は、改めて礼央に頭を下げた。

「この度は大変お世話になりました。弊社の元副社長と常務の悪事を暴き、秘書の命を助けてくださって、本当に感謝しています。ありがとうございました」
「我々はあくまで仕事をしただけですから」
「いいえ、朝比奈さんにしか成し得なかった。私はそう思っています」

そう言うと、社長は凜香に顔を向ける。

「深月さん、君へのプロポーズは取り下げさせてほしい」

礼央はハッとして、隣に立つ凜香の横顔を見た。
凜香は顔色ひとつ変えず、じっと社長を見上げている。

「二度と怖い思いはさせない、必ず君を幸せにする。そう誓ったすぐあとで、君を危険にさらしてしまった。そして私はなにもできなかった。私には、君のそばにいさせてもらう資格はない。君には、ちゃんと君を守ってくれる人と幸せになってほしい。それが私の願いだ」
「鮎川社長……」
「朝比奈さん、どうか私の秘書をくれぐれもよろしくお願いします」

もう一度深々と、社長は礼央に頭を下げた。