この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

今夜は早めに寝ようと、夕食の片づけが終わると、凜香が先にお風呂に入った。
続いて礼央がシャワーを浴びてから寝室に行くと、ドライヤーをかけていた凛香がスイッチを切って振り返った。

「もう上がったんですか? 早いですね」
「男のシャワーなんて、こんなもんだろ」
「そうなんですか? 他の人を知らないから、わからないですけど」

ドクンと礼央の心臓が脈打つ。

(他を、知らない? それって……)

いやいや、そういうことではないだろう。
いやでも、そういうことなのかも?

今日は一日、凛香に翻弄されっぱなしだった。

(大の男が情けない。ドンと構えなければ)

そう思い、小さく咳払いをする。
凜香がドライヤーを置いて立ち上がった。

「じゃあ、寝ましょうか」
「ああ。って、え……」

戸惑っているうちに凛香はベッドに入り、リモコンで照明を消した。

「わっ、真っ暗! 待って、なんにも見えない」

慌ててゴソゴソとリモコンを探している。

「やだ、怖い。朝比奈さん、どこ?」
「大丈夫だ、ここにいる」

礼央は凛香の隣に横たわると、両腕で凛香を抱き寄せた。

「よかった……」

ホッとしたように、凛香は身を寄せてくる。

「あったかくて、安心する」
「そうか。ずっとこうしてるから、なにも心配せずに休め」
「はい」

凛香は礼央の胸元のシャツをキュッと握りしめて、甘えるように頬をくっつけてきた。

「あのね、朝比奈さん」
「なんだ?」
「私、ちゃんとあなたが好きです」

え……と、礼央は思わず腕の中の凛香の顔を見下ろす。

「成り行きだけでこうなったんじゃないです。私、今までずっとあなたに惹かれてたんだと思う。いつもそばで私を守って、危ない時には助け出してくれるあなたを、いつの間にか大好きになっていました。だって今、こうしてあなたといられて、すごく幸せだから」

顔を上げて照れたように笑いかけてくる凛香に、礼央の身体がカッと熱くなった。

「俺もだ」
「え?」
「ずっと君に心惹かれていた。真剣に捜査に協力してくれる君を、俺の身体を心配して手料理を作ってくれる君を、明るく笑いかけてくれる君を、そして危険な作戦に挑んでくれた君を、心から大切にしたいと思った。君が誘拐されたと聞いて、一気に気持ちが爆発した。自分の過ちを叱責し、君を絶対に助けて二度と手放さない、そう誓った。言葉でどう伝えればいいのかわからずにいただけで、これは俺の本心だ」

凜香はじっと礼央の目を見つめてから、嬉しそうに微笑む。

「ちゃんと伝わってました。言葉にしなくても、朝比奈さんの想いは、いつも真っ直ぐ私の心に届いていたから。危険にさらされても、朝比奈さんがきっと助けに来てくれる、そう信じてました。だからあの辛い時間を耐えられたんです。朝比奈さんの存在があったから」

礼央は込み上げる涙をこらえ、片肘をついて身体を起こした。
凜香の頬に手を添えて、じっと見つめる。

「君が無事で、今こうして俺のそばにいてくれることが、なによりも嬉しい。ずっと俺のそばにいてくれ。俺が必ずこの手で守るから」
「はい、ずっとあなたのそばにいさせてください。あなたは私の、かけがえのない人だから」
「ああ、そばにいろ。俺は君のことが心から愛おしい。……凜香」

凜香の頬がピンクに色づく。
はにかんだ笑みを浮かべて、可愛らしい仕草で礼央を見上げた。

「私もあなたが大好きです。………………礼央、さん」
「今、すごいタメたな」
「だって、恥ずかしいんだもん」

そう言うと凜香は照れ隠しのように、ぐりぐりとおでこを礼央の胸にすりつける。

「じゃあ、恥ずかしさなんて感じていられないようにしてやる」
「え?」

首をかしげて顔を上げた凜香をグッと抱き寄せ、礼央は熱く唇を奪う。
ハッと目を見開いて身体を固くする凜香の頭を、さらに強く抱え込み、何度もキスを繰り返した。
やがて一身にキスを受け止めていた凜香の身体から力が抜けていく。
一度身体を離すと、凜香は顔を上気させ、瞳を潤ませながら吐息をついた。
その妖艶さは、礼央の理性を根こそぎ奪う。

「凜香……」 

むさぼるようにまた唇を奪い、凜香の髪をなで、首筋をたどって胸元へと下りていく。
こんなにも自分が突き動かされるのは初めてだった。
いったいこれからどうなってしまうのか、どこまで昇りつめていくのか、自分でもわからない。
礼央はそれほどまでに、凜香に溺れた。

「凜香、綺麗だ」
「……んっ、礼央さん」

肌と肌を合わせるだけで、こんなに心地いいとは。
互いの体温を感じるだけで、こんなに気持ちが安らぐとは。
愛しい人をこの腕に抱くと、こんなにも幸せで恍惚とするとは。

なにもかもが初めての感情で、味わったことのない多幸感。
人を愛するとはこういうことなのだ。
互いに惹かれ合い、求め合って離さない。

礼央はそう感じながら、一晩中凜香を腕に抱きしめていた。