(これは、つまり、なんだ。同棲……ってことになるのか?)
スーパーで買い物をしたあと、キッチンで料理をしている凛香の後ろ姿を見ながら、礼央は一人悶々としていた。
これまで仕事をこなすだけの毎日で、まともに女性と交際した記憶はない。
会いたいと言われて、余裕があれば会う。
そんなドライなつき合い方を、数人とした程度だ。
ましてや同棲など、したいと思ったこともなかった。
だが今は、凛香がここにいてくれることがなにより嬉しい。
鼻歌を歌いながら、トントンとリズミカルに包丁を使う凛香が、愛しくて仕方ない。
こんな気持ちは初めてだった。
真面目にこの状況を考えようとする理性と、ただ心のままに凛香を後ろから抱きすくめたくなる感情とがせめぎ合う。
するとふいに凛香が振り返った。
「朝比奈さん、大根おろし好きですか?」
「ああ、好きだ」
そう口にした途端、顔が火照った。
ーー好きだーー
その三文字が、頭の中でこだまする。
「よかった、私も好きなんです」
ーー私も好きーー
今度はその六文字にエコーがかかる。
(いや待て。大根の話だぞ?)
己にそう言い聞かせた。
「はい、できました! 今日はチキンのみぞれ煮と揚げ出し豆腐、豚バラ肉の梅しそ巻と、ニラ玉にゅうめんです」
「えっ、こんなにすごいごちそう、全部君が作ったのか?」
「はい。作ってたの、朝比奈さんも見てたじゃないですか」
「そうだけど、信じられん」
「ふふっ。矢島さんにも明日持って行ってください」
「それなんだが……、矢島が君のスマホを新しく手配した。明日一緒に受け取りに行くか?」
ええ!?と凜香は驚く。
「矢島さん、私のために?」
「ああ。水没していたけど、データはできる限り復元したそうだ」
「そんな。とってもありがたいです」
「それと……」
礼央は一度視線を落としてから、思い切って顔を上げた。
「署で事情聴取させてほしい」
「事情、聴取……」
「ああ。黒岩と常務の罪を裏づけるためには、君の証言が必要なんだ。だけど思い出したくないことを無理にしゃべらなくてもいい。俺も、必ずそばについている」
すると凜香はしっかりと視線を合わせる。
「わかりました。大丈夫です」
「そうか、ありがとう。明日俺の車で一緒に行こう」
「はい」
「じゃあ、冷めないうちにいただくか」
「そうですね。いただきます」
凜香の手料理はどれもこれもおいしく、礼央はまたしても一気に平らげた。
スーパーで買い物をしたあと、キッチンで料理をしている凛香の後ろ姿を見ながら、礼央は一人悶々としていた。
これまで仕事をこなすだけの毎日で、まともに女性と交際した記憶はない。
会いたいと言われて、余裕があれば会う。
そんなドライなつき合い方を、数人とした程度だ。
ましてや同棲など、したいと思ったこともなかった。
だが今は、凛香がここにいてくれることがなにより嬉しい。
鼻歌を歌いながら、トントンとリズミカルに包丁を使う凛香が、愛しくて仕方ない。
こんな気持ちは初めてだった。
真面目にこの状況を考えようとする理性と、ただ心のままに凛香を後ろから抱きすくめたくなる感情とがせめぎ合う。
するとふいに凛香が振り返った。
「朝比奈さん、大根おろし好きですか?」
「ああ、好きだ」
そう口にした途端、顔が火照った。
ーー好きだーー
その三文字が、頭の中でこだまする。
「よかった、私も好きなんです」
ーー私も好きーー
今度はその六文字にエコーがかかる。
(いや待て。大根の話だぞ?)
己にそう言い聞かせた。
「はい、できました! 今日はチキンのみぞれ煮と揚げ出し豆腐、豚バラ肉の梅しそ巻と、ニラ玉にゅうめんです」
「えっ、こんなにすごいごちそう、全部君が作ったのか?」
「はい。作ってたの、朝比奈さんも見てたじゃないですか」
「そうだけど、信じられん」
「ふふっ。矢島さんにも明日持って行ってください」
「それなんだが……、矢島が君のスマホを新しく手配した。明日一緒に受け取りに行くか?」
ええ!?と凜香は驚く。
「矢島さん、私のために?」
「ああ。水没していたけど、データはできる限り復元したそうだ」
「そんな。とってもありがたいです」
「それと……」
礼央は一度視線を落としてから、思い切って顔を上げた。
「署で事情聴取させてほしい」
「事情、聴取……」
「ああ。黒岩と常務の罪を裏づけるためには、君の証言が必要なんだ。だけど思い出したくないことを無理にしゃべらなくてもいい。俺も、必ずそばについている」
すると凜香はしっかりと視線を合わせる。
「わかりました。大丈夫です」
「そうか、ありがとう。明日俺の車で一緒に行こう」
「はい」
「じゃあ、冷めないうちにいただくか」
「そうですね。いただきます」
凜香の手料理はどれもこれもおいしく、礼央はまたしても一気に平らげた。



