この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

車を走らせながら、礼央は助手席の矢島に尋ねる。

「詳しい場所、特定できたか?」
「あと三分ください。基地局ログをこの場で引っこ抜きます」

ノートパソコンのキーボードを叩きながら、矢島は懸命に目を凝らしていた。

「ここだ! 倉庫番号、Eー17の裏手。黒い車から断続的な発信あり」
「よし。応援を要請しろ。水と氷を持ってくるように。それから救急車も。現場近くまで来たらサイレンを消して待機させろ」
「了解!」

やがて南埠頭に着くと、ゆっくりと静かに車を進める。

「その先の倉庫を左に曲がったところです」
「わかった。ここで降りるぞ」
「はい」

エンジンを切り、二人でそっと車から降りる。
目の前にある倉庫の壁に添って進み、角から顔を覗かせた。
少し先に、防犯カメラで捉えていた黒いセダンが見える。
運転席にわずかに動く人の気配がした。

「犯人はおそらくひとりだ。両側から同時に挟み撃ちする」
「朝比奈検事、丸腰ですよ?」
「構わん。行くぞ」

二人で姿勢を低くしたまま、すばやく車の後ろに移動する。
目配せしてタイミングを合わせてから、同時に運転席と助手席のドアを開けた。

「警察だ、動くな!」

ヒッ!とスマートフォンをいじっていた五十歳くらいの男が縮み上がる。
どう見ても素人だった。
他には誰もいない。
凛香の姿も……。

「誘拐の容疑で逮捕する」

矢島が後部座席の上の手すりに手錠を通してから、男の手首にかけた。
礼央はすぐさま男を問い詰める。

「人質はどこだ」
「さ、さあね。なんのことだか……」
「ふざけるな!」

自分でも驚くほどドスの効いた声だった。

「お前、人の命を奪う覚悟があるのか?」

凍てつくような鋭い視線で睨みつけると、男は身震いしながらたどたどしく答える。

「あっちの、端の……、Aー11の倉庫だ」

男が言い終わる前に、礼央は駆け出していた。