一時間半後、警視庁内の会議室に、捜査一課、サイバー犯罪対策課、そして東京地検特捜部のメンバーが集まった。
前方のスクリーンには凛香の顔写真と、
『秘書は預かった。午後三時までにこの口座に一億円を振り込め。警察に知らせれば秘書の命はない』
と書かれたメールの文面が映し出されている。
進行役の刑事が口を開いた。
「本日十時十二分、株式会社ワンアクトテクノロジーズの鮎川社長宛にこの脅迫メールが届きました。差出人アドレスは、誘拐された社長秘書である深月凛香さん本人のGmailアドレス。送信元のIPは、本人の自宅マンション近くの基地局に一致。送信後、深月さんのスマートフォンは通信を絶ち、圏外となりました。なお端末は先ほど、マンション裏手の排水口にて発見されています。また、指定された振込先の口座名義は、現在勾留中のワンアクト副社長、黒岩正のもの。今この件で本人を取り調べていますが、身に覚えがないの一点張りとのこと」
黒岩が?と、室内がざわめく。
礼央は黙ったまま、テーブルの上の書類に目を落としていた。
だが握りしめた拳は、かすかに震えている。
なんとか冷静になろうと必死だった。
(彼女は今どこに? 無事なのか?)
その時、パソコンを操作していた矢島が手を挙げた。
「脅迫メール送信時の基地局ログが一致しません。送信ログに不可解な点があります」
「矢島刑事、詳細を」
「はい。深月さんのメールの送信ログを調べたところ、送信されたのは本日十時十二分ですが、作成されたのは昨日の二十二時八分。しかも、すぐ送信されていない」
「どういうことだ?」
「予約送信です。犯人が深月さんのスマホを使い、昨日のうちに送信時刻を指定したと考えられます」
会議室に再びざわめきが広がる。
「つまり犯人は、すでに夕べのうちに深月さんを誘拐していた。朝になってから送ったように見せることで、犯行時刻を偽装したんです。今調べている深月さんのマンション周辺の防犯カメラ、今朝十時頃だけでなく、昨夜二十二時頃の映像も確認を」
はい!と担当者が返事をして、矢島が続けた。
「犯人は予約送信をセットした直後に、スマホを排水口へ投げ捨てて水没させました。通信は遮断され、GPSも反応しない。この線では犯人を追えません。防犯カメラの映像から、早急に怪しい車両を洗い出します」
「よし。矢島もその班に加われ」
上司である警部に「はい」と返事をして、矢島は防犯カメラの映像を解析していたメンバーと合流する。
「この黒い車、怪しいな。ナンバープレートが不鮮明でも、車の特徴で絞り込める。この車両を複数のカメラ映像で追跡するんだ」
「はい」
「この付近の交差点の信号カメラ映像と組み合わせると、車は南埠頭の倉庫群へ向かっている」
同時に南埠頭の基地局の電波ログを分析し、携帯電話からの断続的な電波を確認した。
「端末の電波強度を三角測量して位置を推定する。おそらく犯人は、自分のスマホを時々いじっているな。このエリアの古い倉庫群の近くだ。南埠頭の電波、確定。倉庫番号、今割り出す」
すると礼央が立ち上がる。
「ひとまず向かう。行くぞ、矢島」
進行役の刑事が慌てて口を開いた。
「正式な令状はまだ出ていません!」
「……人質は真夏の倉庫に閉じ込められている。一分一秒を争うんだ。待ってられるか」
冷たく言い放ち、礼央は会議室を飛び出した。
前方のスクリーンには凛香の顔写真と、
『秘書は預かった。午後三時までにこの口座に一億円を振り込め。警察に知らせれば秘書の命はない』
と書かれたメールの文面が映し出されている。
進行役の刑事が口を開いた。
「本日十時十二分、株式会社ワンアクトテクノロジーズの鮎川社長宛にこの脅迫メールが届きました。差出人アドレスは、誘拐された社長秘書である深月凛香さん本人のGmailアドレス。送信元のIPは、本人の自宅マンション近くの基地局に一致。送信後、深月さんのスマートフォンは通信を絶ち、圏外となりました。なお端末は先ほど、マンション裏手の排水口にて発見されています。また、指定された振込先の口座名義は、現在勾留中のワンアクト副社長、黒岩正のもの。今この件で本人を取り調べていますが、身に覚えがないの一点張りとのこと」
黒岩が?と、室内がざわめく。
礼央は黙ったまま、テーブルの上の書類に目を落としていた。
だが握りしめた拳は、かすかに震えている。
なんとか冷静になろうと必死だった。
(彼女は今どこに? 無事なのか?)
その時、パソコンを操作していた矢島が手を挙げた。
「脅迫メール送信時の基地局ログが一致しません。送信ログに不可解な点があります」
「矢島刑事、詳細を」
「はい。深月さんのメールの送信ログを調べたところ、送信されたのは本日十時十二分ですが、作成されたのは昨日の二十二時八分。しかも、すぐ送信されていない」
「どういうことだ?」
「予約送信です。犯人が深月さんのスマホを使い、昨日のうちに送信時刻を指定したと考えられます」
会議室に再びざわめきが広がる。
「つまり犯人は、すでに夕べのうちに深月さんを誘拐していた。朝になってから送ったように見せることで、犯行時刻を偽装したんです。今調べている深月さんのマンション周辺の防犯カメラ、今朝十時頃だけでなく、昨夜二十二時頃の映像も確認を」
はい!と担当者が返事をして、矢島が続けた。
「犯人は予約送信をセットした直後に、スマホを排水口へ投げ捨てて水没させました。通信は遮断され、GPSも反応しない。この線では犯人を追えません。防犯カメラの映像から、早急に怪しい車両を洗い出します」
「よし。矢島もその班に加われ」
上司である警部に「はい」と返事をして、矢島は防犯カメラの映像を解析していたメンバーと合流する。
「この黒い車、怪しいな。ナンバープレートが不鮮明でも、車の特徴で絞り込める。この車両を複数のカメラ映像で追跡するんだ」
「はい」
「この付近の交差点の信号カメラ映像と組み合わせると、車は南埠頭の倉庫群へ向かっている」
同時に南埠頭の基地局の電波ログを分析し、携帯電話からの断続的な電波を確認した。
「端末の電波強度を三角測量して位置を推定する。おそらく犯人は、自分のスマホを時々いじっているな。このエリアの古い倉庫群の近くだ。南埠頭の電波、確定。倉庫番号、今割り出す」
すると礼央が立ち上がる。
「ひとまず向かう。行くぞ、矢島」
進行役の刑事が慌てて口を開いた。
「正式な令状はまだ出ていません!」
「……人質は真夏の倉庫に閉じ込められている。一分一秒を争うんだ。待ってられるか」
冷たく言い放ち、礼央は会議室を飛び出した。



