「社長、今夜はごちそうさまでした」
ハイヤーでマンションまで送ってもらうと、凛香は車を降りて社長と向かい合う。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。ゆっくり休んで」
「はい。社長も」
すると最後に社長は顔を寄せて、そっと凛香の耳元でささやいた。
「いい返事を待ってる。おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」
口元に笑みを浮かべて頷き、社長は車に乗り込む。
凛香はその場に佇んで見送った。
車が角を曲がって見えなくなると、ふう、とため息をつく。
(どうしよう、ほんとに急な話でびっくりしたなあ)
これまで社長と自分の間には、そんな空気は一切なかったし、社長を恋愛対象として見たこともなかった。
(それは社長も同じで、私をそんなふうに思ったこともなかったのよね? でも事件がきっかけで、気持ちに変化があったのかな。なんてお返事すればいいんだろう)
今はなにも考えられない。
明日からお盆休みに入り、しばらく社長と顔を合わせることもない。
(ゆっくり考えさせてもらおう)
そう思い、ようやくマンションのエントランスに向かった時だった。
キュキュッとタイヤの音がして、背後に車が止まる。
「社長? なにか忘れもの……」
そう言って振り向いた瞬間、グッと口元をハンカチで覆われた。
ツンと鼻をさす匂いとグラッと歪む視界に、思わず固く目を閉じる。
そのまま凛香の意識はフッと途切れた。
ハイヤーでマンションまで送ってもらうと、凛香は車を降りて社長と向かい合う。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。ゆっくり休んで」
「はい。社長も」
すると最後に社長は顔を寄せて、そっと凛香の耳元でささやいた。
「いい返事を待ってる。おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」
口元に笑みを浮かべて頷き、社長は車に乗り込む。
凛香はその場に佇んで見送った。
車が角を曲がって見えなくなると、ふう、とため息をつく。
(どうしよう、ほんとに急な話でびっくりしたなあ)
これまで社長と自分の間には、そんな空気は一切なかったし、社長を恋愛対象として見たこともなかった。
(それは社長も同じで、私をそんなふうに思ったこともなかったのよね? でも事件がきっかけで、気持ちに変化があったのかな。なんてお返事すればいいんだろう)
今はなにも考えられない。
明日からお盆休みに入り、しばらく社長と顔を合わせることもない。
(ゆっくり考えさせてもらおう)
そう思い、ようやくマンションのエントランスに向かった時だった。
キュキュッとタイヤの音がして、背後に車が止まる。
「社長? なにか忘れもの……」
そう言って振り向いた瞬間、グッと口元をハンカチで覆われた。
ツンと鼻をさす匂いとグラッと歪む視界に、思わず固く目を閉じる。
そのまま凛香の意識はフッと途切れた。



