「とっても美味しいですね」
ワインレッドのクロスが掛けられたテーブルに、フレンチのフルコースが次々と運ばれてくる。
凛香はうっとりとステーキの美味しさに目を細めた。
「そんなに美味しそうに食べてくれると、私も嬉しいよ」
シャンパンを飲みながら、社長は笑みを浮かべる。
「深月さん、実はね。先日私の自宅に、朝比奈検事と矢島刑事が来てくれたんだ」
えっ、と凛香は手を止めた。
「お二人が、社長のご自宅に?」
「ああ、事件の詳細を教えてくれた。そこで初めて私は、君が自分の身をかえりみず、危険を侵してまで捜査に協力してくれたことを知ったんだ。本当に申し訳なかった」
頭を下げられ、凛香は慌てる。
「そんな、お顔を上げてください、社長」
「いや、私は自分の不甲斐なさが情けなくてね。仮にも社長でありながら、私は警護されるだけでなにもできなかった。それなのに、まだ若い女の子の君が、果敢に立ち向かって会社を救ってくれた。私はこの先もずっと君に感謝し続けるよ。ありがとう、深月さん」
「社長……」
「君は私が本部長の頃から秘書として支えてくれた。社長となってからも、誰よりも近くでいつも私を助けてくれた。しかも、こんなにも大きな会社のピンチでさえ、救ってくれたんだ。これからは私に君を守らせてほしい。二度と怖い思いはさせない。必ず君を幸せにする。だから深月さん、私と結婚してほしい」
凛香は、なにが起こったのかと呆然とした。
なにかの冗談ですかと、しばし考え込む。
だが社長は真っすぐ凛香を見つめて、再びはっきりと告げた。
「結婚してください、深月さん」
「え、あの、社長? まさか、本気で?」
「もちろん。私は四十三歳で君には不釣り合いだと思う。だけどそれを理由に諦める気にはなれない。君を手放したくないんだ。みっともないと言われようが、なりふり構わずお願いする。どうか、私と結婚してほしい」
「そんな、だって、大企業の社長と私では身分の違いが……」
「そんなものあるわけがない。それに私は、社長といっても成り上がりなのは君も知ってるだろう?」
「いえ、そんな」
「急なことで驚いたかもしれない。だけど私は自覚していなかっただけで、ずっと君が好きだったと今になって気づいた。好きになってはいけないと、自分の気持ちから目を背けていただけなんだ。深月さん、君が心から好きだ。返事は今すぐでなくていいから、どうか私との結婚を考えてみてくれないか?」
凛香はしばし逡巡してから、おずおずと視線を上げる。
「はい、考えてみます」
「よかった。ありがとう」
社長は心底ホッとしたように肩の力を抜いた。
(こんな表情の社長、初めて)
誠実に向き合って、返事を考えようと凛香は思った。
ワインレッドのクロスが掛けられたテーブルに、フレンチのフルコースが次々と運ばれてくる。
凛香はうっとりとステーキの美味しさに目を細めた。
「そんなに美味しそうに食べてくれると、私も嬉しいよ」
シャンパンを飲みながら、社長は笑みを浮かべる。
「深月さん、実はね。先日私の自宅に、朝比奈検事と矢島刑事が来てくれたんだ」
えっ、と凛香は手を止めた。
「お二人が、社長のご自宅に?」
「ああ、事件の詳細を教えてくれた。そこで初めて私は、君が自分の身をかえりみず、危険を侵してまで捜査に協力してくれたことを知ったんだ。本当に申し訳なかった」
頭を下げられ、凛香は慌てる。
「そんな、お顔を上げてください、社長」
「いや、私は自分の不甲斐なさが情けなくてね。仮にも社長でありながら、私は警護されるだけでなにもできなかった。それなのに、まだ若い女の子の君が、果敢に立ち向かって会社を救ってくれた。私はこの先もずっと君に感謝し続けるよ。ありがとう、深月さん」
「社長……」
「君は私が本部長の頃から秘書として支えてくれた。社長となってからも、誰よりも近くでいつも私を助けてくれた。しかも、こんなにも大きな会社のピンチでさえ、救ってくれたんだ。これからは私に君を守らせてほしい。二度と怖い思いはさせない。必ず君を幸せにする。だから深月さん、私と結婚してほしい」
凛香は、なにが起こったのかと呆然とした。
なにかの冗談ですかと、しばし考え込む。
だが社長は真っすぐ凛香を見つめて、再びはっきりと告げた。
「結婚してください、深月さん」
「え、あの、社長? まさか、本気で?」
「もちろん。私は四十三歳で君には不釣り合いだと思う。だけどそれを理由に諦める気にはなれない。君を手放したくないんだ。みっともないと言われようが、なりふり構わずお願いする。どうか、私と結婚してほしい」
「そんな、だって、大企業の社長と私では身分の違いが……」
「そんなものあるわけがない。それに私は、社長といっても成り上がりなのは君も知ってるだろう?」
「いえ、そんな」
「急なことで驚いたかもしれない。だけど私は自覚していなかっただけで、ずっと君が好きだったと今になって気づいた。好きになってはいけないと、自分の気持ちから目を背けていただけなんだ。深月さん、君が心から好きだ。返事は今すぐでなくていいから、どうか私との結婚を考えてみてくれないか?」
凛香はしばし逡巡してから、おずおずと視線を上げる。
「はい、考えてみます」
「よかった。ありがとう」
社長は心底ホッとしたように肩の力を抜いた。
(こんな表情の社長、初めて)
誠実に向き合って、返事を考えようと凛香は思った。



