この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

数日後。
礼央は矢島と警視庁で、事件の詳細を確認していた。

羽田空港で身柄を拘束されたフーメイは、東京地検に送致された。
国際指名手配中であるが、ワンアクトを標的にした組織的経済犯罪、および不法入国の容疑により、まずは日本の法律に基づいて逮捕、勾留され、その後起訴されることになる。
凛香の自宅マンションを張っていたワンボックスカーの持ち主を事情聴取したが、闇バイトを通じて依頼されただけで、もちろんフーメイとの繋がりはなかった。

そして肝心なサンクチュアリとの繋がりも、糸口すら見つからない。

「フーメイが送金していた宛先のアドレスは全て、VPNと仮想サーバーを使って偽装されていました。VPNは、ネット上の通信を暗号化して追跡を困難にする技術で、自分の通信を別の場所から発信しているように見せかけられます。通信内容もすべて暗号化されるため追跡が困難で、送信元のIPアドレスも偽装できます」
「つまり、サンクチュアリにはたどり着けないってことか」
「残念ながら。ですが、フーメイ逮捕はサンクチュアリにとってもかなりの打撃だったはずです。フーメイはこれから起訴されて裁判となるでしょうが、日本での刑期を終えたあと、アジア数カ国でも同様の犯罪容疑で身柄引き渡しが要請される可能性があります。長い戦いになりますが、必ずサンクチュアリは潰せるはずです」
「そうだな。問題は黒岩の方か……」

フーメイに操られていた、と供述している黒岩は、自ら主導したわけではないという立場を貫いていた。
検察内でも、不起訴も視野に入れるべきとの意見が出始め、礼央の力だけでは流れを変えられそうにない。
フーメイとの関係が不明確なままでは弱いと、不起訴の方向で書かれた起案書を読み、礼央は拳をギュッと握りしめる。

そして黒岩の勾留期限まであと二日となったその日。
事件は起こった。