この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

月曜日の午前十時一分。

ワンアクト本社ビルのエントランスに、複数の検察官と刑事を従え、スーツ姿の礼央と矢島が現れた。
受付で、強制捜査の令状を示す。

「東京地方検察庁特別捜査部の検事、朝比奈です。黒岩副社長の業務上横領および背任の容疑で、御社オフィスを捜索させていただきます」
「あの、副社長は今、役員会議室に……」
「承知しています。案内はいりません。場所も把握していますので」

黒岩が出社したことは、マークしていた刑事から報告があった。
その後、今日から仕事復帰した凜香に連絡し、黒岩の所在を確認していた。

礼央たちはエレベーターで五階に上がり、凜香に教えられた会議室のドアを開ける。
驚いたように振り返った役員たちの一番奥で、大きなお腹でふんぞり返って座っている黒岩の姿があった。

「……なんだね? ノックもせずに無礼な」
「東京地方検察庁です。黒岩副社長、あなたに業務上横領および背任の疑いがあります。実体のない外部業者との間で、年間およそ二億円の資金が動いている。そのうちの一部が、あなた個人の口座に流れていた。既に証拠も得ています」
「なにをバカなことを。二億? そんな金持ってたら会社に来ないで、今頃南国でバカンスを楽しんでるよ。なあ?」

他の役員たちと顔を見合わせて笑う黒岩に、礼央は冷静に続ける。

「確かにあなたは二億もの大金を動かせる器じゃない。せいぜい愛人の捨て駒がふさわしい」
「なっ……」
「おや、心当たりでも? 署で詳しくお聞かせいただけますか。それとも今ここで?」

うぐっと言葉を詰まらせて黒岩は礼央を睨みつける。
礼央が隣に立つ矢島に視線を移し、刑事たちが一斉に黒岩を取り囲んだ。