この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

別の刑事に任せて凛香をマンションに帰らせると、礼央は矢島が出力した証拠のデータを手に、上司である主任検事に報告する。

「こちらが暗号通貨の送金ログと、経理システムの改ざん履歴です。アクセスは海外サーバーを複数経由し、使用されたデバイスはワンアクトの支給品ではなく、異なるOSを搭載した私物と思われます。特定されたアクセス元は、都内港区の高級マンション。そこにフーメイが潜伏している可能性が高い。矢島の遠隔操作に気づいた可能性を考え、フーメイは即刻身柄を確保すべきかと。ただ黒岩は、監視のもとしばらく泳がせ、ほかに共犯者がいないか、フーメイとの連絡方法やサンクチュアリとの繋がりがないかを見極めたいと考えます」

主任検事は、サッと資料に目を走らせてから頷いた。

「……よし。差し押さえ令状は、こちらで手配する。警視庁と連携して押収、逮捕を」
「はい、ただちに」

礼央は身を翻すとすぐにフーメイの潜伏先と思われるマンションへ向かうよう、無線で指示を飛ばした。

『マンション、もぬけの殻です!』

しばらくして入ってきた報告に、礼央は即座に反応する。

「海外に高飛びだ。空港と港に連絡を!」

数時間後、出国を企てていたフーメイが羽田空港で取り押さえられた。
パスポートは偽名、外見も別人だったが指紋が一致し、決め手となった。

「データベースにフーメイの指紋なんて、登録されてましたっけ?」

矢島の問いに、礼央はわずかに口角を上げた。

「黒岩と密会していた部屋に残されたグラスから採取させてあった」
「え、いつの間に?」
「矢島、忘れるな。犯人逮捕には、証拠が重要だとな」

そして二日間泳がせた黒岩は、特になにもアクションを起こさない。
おそらくフーメイが逮捕されたことも知らないのだろう。
もしかすると、フーメイにメッセージを送っても返信がない、程度の違和感は感じているかも知れないが。
サンクチュアリとの接触もナシとみて、月曜日に、黒岩の身柄を確保することが決まった。