この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「朝比奈検事、どうして彼女に事件のことをちゃんと話さなかったんですか?」

凛香を見送ると、二人だけになった部屋で矢島が切り出した。

「本当は単なる不正アクセス事件じゃない、国際犯罪組織に繋がる可能性がある。だから地検特捜部も乗り出したんだって」

東京地検特捜部は、主に汚職や巨額の横領など、政治家や大企業が関わる大規模事件を扱う、言わば検察の先鋭部隊。
数件の不正アクセス事件で自ら動くような部署ではなかった。

「あの秘書の深月さん、まずはそこを気にかけるなんて。ね? やっぱり勘のいい人でしょう?」

礼央は、はあ……と深いため息をついてから、矢島を見下ろした。

「お前は本当にサイ対課の人間か? いや、その前に本当に刑事なのか?」

矢島はキョトンとした顔で首をかしげる。

「と、おっしゃいますと?」
「さっきの秘書がシロだとなぜ言い切れる? 彼女こそが黒幕だったら? わざわざこちらの手の内を明かすようなもんだろ」
「ああ、なるほど。でもそれなら、不正アクセス事件についても話すべきじゃなかったですよね」
「おまっ……、どのツラ下げて言ってやがる? そもそもお前が間抜けな失態をさらしたから、あの秘書になにかしら説明せざるを得なくなったんだろうが!」

怒りをあらわにすると、矢島はまたしてもヒエッと首をすくめた。

「いいか、とにかくお前は表に出るな! 部屋にこもってパソコンいじってろ。わかったか!?」
「は、はい! 仰せのままに」

最敬礼してみせる矢島にもう一度深いため息をついてから、ようやく礼央は部屋をあとにした。