「冷蔵庫で冷やしておきますね。その間に、お風呂に入って来てもいいですか?」
「ああ、もちろん。俺も部屋でシャワーを浴びてくる」
「わかりました。あ、じゃあ玄関に置いてある鍵を持って行ってください。多分、私の方がお風呂上がるの遅いので」
「わかった」
立ち上がると玄関の棚にある鍵を手に、一度自分の部屋に戻る。
電気を点けると、殺風景な部屋が冷たく感じられた。
(こんなに味気ない部屋だったか?)
くつろいだり、ゆっくり過ごせる部屋とは言い難い。
凜香の温かみのある部屋とは大違いだった。
(部屋って、そこにいる人で雰囲気が変わるんだな)
そんなことを考えつつ、いつものようにサッとシャワーを浴びる。
クリーニング済みのシャツとスラックスに着替えてから、凜香の部屋に戻った。
(やっぱりこっちは明るくて温かい)
凜香の部屋に入ると、それだけで気分が明るくなる気がした。
バスルームから時折ちゃぽんと音がして、礼央はドギマギし始める。
(ちょっと待て。なんだこれ?)
ずっと仕事漬けの毎日。
最近はつき合いはおろか、女性と言葉を交わしたり接点もないまま過ごしてきた。
刑事や検事にも当然女性はいるが、職業柄まだまだ男社会。
ワンアクトのオフィスで見かけたような、爽やかな男女の会話などなきに等しい。
そもそも、ふわっとしたスカートの女性としゃべることもなかったと、凜香と知り合ってから気づいた。
その時またしても、バスルームからちゃぽんと音が聞こえてきて、礼央は身を固くする。
こういう音を聞くことも、女性の風呂上りを待つシチュエーションも初めてだった。
(なんだ、このちゃぽんって。思考回路を打ち砕く、破壊力抜群の音。落ち着け、今夜は勝負の夜だぞ。いや、そっちの勝負じゃない。……って、俺はいったい、なにを考えているんだ!)
己に喝を入れるように、ペシッと頬を叩く。
バスルームからは、凜香がお湯から上がり、扉を開ける音が聞こえてきた。
礼央はあぐらをかいて目をつむり、両手を組んで無の境地に入る。
もはや座禅だ。
やがて凜香の鼻歌交じりに、ドライヤーの音が聞こえてきた。
(集中、集中……)
だがドライヤーの音が止み、部屋着姿の凜香がふわりと良い香りを漂わせて部屋に入ってくると、一気に心拍数が上がる。
「ん? 朝比奈さん」
凜香が近づいて来て顔を覗き込む。
(ひっ、なにを……)
間近で見つめれ、別の意味で頭が真っ白になった。
「やっぱり。ちゃんと髪を乾かさなかったでしょう? そのままだと風邪を引いちゃいます」
そう言うと凜香は引き返し、ドライヤーを手に戻って来た。
コンセントを繋ぐと、ゴオーッと礼央の髪を乾かし始める。
「朝比奈さんの髪って、ちょっとだけくせっ毛なんですね。なにもしなくても、いい感じにスタイリングされてるみたい」
凜香は容赦なく礼央の髪に手を入れて、さらさらともてあそぶように乾かしていく。
「はい、できた。こんな感じでどうですか?」
「問題ない」
「ふふふ、よかったです。じゃあ、わらび餅食べましょうか。冷えてるかなー?」
そうだ、キンキンに冷たいわらび餅を食べて頭を冷やすんだ。
礼央は、凜香が持って来たわらび餅を受け取ると、よく噛まずに一気に平らげた。
「ああ、もちろん。俺も部屋でシャワーを浴びてくる」
「わかりました。あ、じゃあ玄関に置いてある鍵を持って行ってください。多分、私の方がお風呂上がるの遅いので」
「わかった」
立ち上がると玄関の棚にある鍵を手に、一度自分の部屋に戻る。
電気を点けると、殺風景な部屋が冷たく感じられた。
(こんなに味気ない部屋だったか?)
くつろいだり、ゆっくり過ごせる部屋とは言い難い。
凜香の温かみのある部屋とは大違いだった。
(部屋って、そこにいる人で雰囲気が変わるんだな)
そんなことを考えつつ、いつものようにサッとシャワーを浴びる。
クリーニング済みのシャツとスラックスに着替えてから、凜香の部屋に戻った。
(やっぱりこっちは明るくて温かい)
凜香の部屋に入ると、それだけで気分が明るくなる気がした。
バスルームから時折ちゃぽんと音がして、礼央はドギマギし始める。
(ちょっと待て。なんだこれ?)
ずっと仕事漬けの毎日。
最近はつき合いはおろか、女性と言葉を交わしたり接点もないまま過ごしてきた。
刑事や検事にも当然女性はいるが、職業柄まだまだ男社会。
ワンアクトのオフィスで見かけたような、爽やかな男女の会話などなきに等しい。
そもそも、ふわっとしたスカートの女性としゃべることもなかったと、凜香と知り合ってから気づいた。
その時またしても、バスルームからちゃぽんと音が聞こえてきて、礼央は身を固くする。
こういう音を聞くことも、女性の風呂上りを待つシチュエーションも初めてだった。
(なんだ、このちゃぽんって。思考回路を打ち砕く、破壊力抜群の音。落ち着け、今夜は勝負の夜だぞ。いや、そっちの勝負じゃない。……って、俺はいったい、なにを考えているんだ!)
己に喝を入れるように、ペシッと頬を叩く。
バスルームからは、凜香がお湯から上がり、扉を開ける音が聞こえてきた。
礼央はあぐらをかいて目をつむり、両手を組んで無の境地に入る。
もはや座禅だ。
やがて凜香の鼻歌交じりに、ドライヤーの音が聞こえてきた。
(集中、集中……)
だがドライヤーの音が止み、部屋着姿の凜香がふわりと良い香りを漂わせて部屋に入ってくると、一気に心拍数が上がる。
「ん? 朝比奈さん」
凜香が近づいて来て顔を覗き込む。
(ひっ、なにを……)
間近で見つめれ、別の意味で頭が真っ白になった。
「やっぱり。ちゃんと髪を乾かさなかったでしょう? そのままだと風邪を引いちゃいます」
そう言うと凜香は引き返し、ドライヤーを手に戻って来た。
コンセントを繋ぐと、ゴオーッと礼央の髪を乾かし始める。
「朝比奈さんの髪って、ちょっとだけくせっ毛なんですね。なにもしなくても、いい感じにスタイリングされてるみたい」
凜香は容赦なく礼央の髪に手を入れて、さらさらともてあそぶように乾かしていく。
「はい、できた。こんな感じでどうですか?」
「問題ない」
「ふふふ、よかったです。じゃあ、わらび餅食べましょうか。冷えてるかなー?」
そうだ、キンキンに冷たいわらび餅を食べて頭を冷やすんだ。
礼央は、凜香が持って来たわらび餅を受け取ると、よく噛まずに一気に平らげた。



