この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

インターフォンのチャイムを鳴らすと、いつもと変わりない笑顔で凜香が玄関のドアを開ける。

「おかえりなさい。早かったですね」
「ああ。君は? ゆっくりできたか?」
「はい。普段通りにスーパーで買い物をして、ガーデンを散歩して来ました。夕食、すぐに用意しますね。どうぞ」

部屋に上がると、いい匂いが漂っていた。

「今夜はうな重なんですよ。パワーつけなきゃと思って。矢島さんの分も作ったので、あとで持って行きますね」

そう言って凜香は、ローテーブルに美味しそうなうなぎのかば焼きが載ったどんぶりを置く。

「あと、お吸い物と茶わん蒸しも」
「ありがとう。いただきます」

手を合わせてからじっくりと味わう。

「ふふっ、ようやく朝比奈さん、よく噛んで食べてくれるようになりましたね」

言われて初めて気づく。
どうやら平常心を保ちつつ、やはりどこかで気を張っているのだろう。

(それはそうだ。彼女を必ず守り抜き、フーメイと黒岩を捕まえる。勝負を前に、いつもと同じではいられない)

だが凜香にまで緊張感が伝わってはいけない。
そう思い、さり気なく会話をする。

「食べたら風呂に入って寝るか?」
「え、もう? さすがに寝付けませんよ」
「そうか。じゃあ、散歩にでも行くか」
「ええ? 朝比奈さんでも散歩とかするんですか?」

まずい。
これだと違和感しか与えない。

「いや、隣の棟のコンビニまで。なんか甘いものでも買いに」
「朝比奈さん、コンビニスイーツ食べるんですか?」

食べるわけがない。
だが話を合わせなくては。

「……わらび餅なら」
「わらび餅? そうなんですね。冷蔵庫でキンキンに冷やして食べるわらび餅、私も好きです」
「俺も好きだ」

いや、待て。
なんか今のセリフ引っかかる。

ーー私も好きですーー
ーー俺も好きだーー

またしてもその部分だけが頭の中で繰り返された。
これは本当にまずい。
一度頭を冷やさなければ。
そう思い、食事を終えると凜香と並んで隣のコンビニに向かい、わらび餅を買った。