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凛香をマンションまで送り届けると、午後から捜査本部で会議が始まった。
前方のホワイトボードには、びっしりと今後の作戦の詳細が書かれている。
矢島が会議室をぐるりと見渡してから説明を始めた。
「実行日時は明後日、正確には七月十八日に日付が変わったあとの深夜二時十八分。まずはワンアクト本社ビル警備室の監視モニターの映像をループ再生し、同時にセキュリティーゲートの通知をオフに設定。これらはこの捜査本部で私がリモート操作いたします。次に待機していた深月さんがIDカードで電子ロックを解除し、朝比奈検事と共に社員用通用口から中に侵入。地下駐車場に階段を使って下ります。その後ただちに深月さんの社用パソコンを社内Wi-Fiに接続し、その回線を利用して、私が裏から経理システムに侵入。横領とデータ改ざんの証拠を押さえます。最後にログクリーンを実行、痕跡を消去。深月さんと朝比奈検事が退出して作戦終了。以上です」
手元の資料に目を落としながら聞いていた、東京地検特捜部の主任検事が、ゆったりと椅子に深く背を預けた。
「随分簡単に言うね、矢島くん。そんなに簡単なのか? まるでワンクリック詐欺みたいだな 」
ははっと乾いた笑い声が上がる。
「我々特捜部も絡んでるんだ。失敗しました、じゃ済まされないんだよ、うちは」
会議室の空気が、矢島を蔑むような雰囲気になった。
口を開いて何かを言おうとした矢島の横で、スッと礼央が前に歩み出る。
「……朝比奈さん?」
矢島は呟いて礼央の横顔を見上げた。
「お言葉ですが主任。矢島は失敗などしません。必ずやり遂げてみせます」
「なっ……」
誰よりも矢島が驚いて仰け反る。
「朝比奈検事、なにを……」
「この矢島の手にかかれば、この作戦もあっという間に完遂。おっしゃる通り、ワンクリックで済ませてみせます」
矢島は慌てて礼央を小声で制した。
「ちょっと、なんてことを言うんですか! 朝比奈さん」
「うるさい、黙ってろ」
低い声で鋭く言い放たれ、矢島は言葉を呑み込む。
「ほう、朝比奈検事。いつの間にサイ対課にご心酔あそばしたんだ? 特捜部は辞めたのか?」
上司に当たる主任検事に言われてムッと表情を変える礼央に、今度は矢島がズイッと前に身を乗り出した。
「そ、それではこれより、詳しくこの作戦の全貌をご説明いたします。なるべく噛み砕いてお話しいたしますが、聞き慣れない単語などでてきましたらご容赦ください。まず深月さんが繋いでくれた社内ネットワークを通じて、バックドアから経理システムに進入しますが、普通にアクセスすると即座に感知され、アラートが飛びます。そこでおとりとして、不審なログインを疑似発生させる通称デコイを発動。あえて偽の不正操作を検出させて、管理AIをそちらに誘導し、その隙に本命のログフォルダに潜る。あとは暗号通貨の送金履歴や経理システムの操作履歴などを取得します。以上ですが、なにかご不明な点は?」
「……ふん、まあいいだろう。口先でなら、なんとでも言える。成果を見せて、納得させてもらおう」
「はい、必ず」
矢島が主任検事に深々と頭を下げる。
最後に進行役のサイバー犯罪対策課の主任刑事が、声を張った。
「各自、作戦当日の動きと配置を確認せよ。以上、解散!」
ガヤガヤとざわめきが戻ってきて、ようやく矢島と礼央は肩の力を抜いた。
凛香をマンションまで送り届けると、午後から捜査本部で会議が始まった。
前方のホワイトボードには、びっしりと今後の作戦の詳細が書かれている。
矢島が会議室をぐるりと見渡してから説明を始めた。
「実行日時は明後日、正確には七月十八日に日付が変わったあとの深夜二時十八分。まずはワンアクト本社ビル警備室の監視モニターの映像をループ再生し、同時にセキュリティーゲートの通知をオフに設定。これらはこの捜査本部で私がリモート操作いたします。次に待機していた深月さんがIDカードで電子ロックを解除し、朝比奈検事と共に社員用通用口から中に侵入。地下駐車場に階段を使って下ります。その後ただちに深月さんの社用パソコンを社内Wi-Fiに接続し、その回線を利用して、私が裏から経理システムに侵入。横領とデータ改ざんの証拠を押さえます。最後にログクリーンを実行、痕跡を消去。深月さんと朝比奈検事が退出して作戦終了。以上です」
手元の資料に目を落としながら聞いていた、東京地検特捜部の主任検事が、ゆったりと椅子に深く背を預けた。
「随分簡単に言うね、矢島くん。そんなに簡単なのか? まるでワンクリック詐欺みたいだな 」
ははっと乾いた笑い声が上がる。
「我々特捜部も絡んでるんだ。失敗しました、じゃ済まされないんだよ、うちは」
会議室の空気が、矢島を蔑むような雰囲気になった。
口を開いて何かを言おうとした矢島の横で、スッと礼央が前に歩み出る。
「……朝比奈さん?」
矢島は呟いて礼央の横顔を見上げた。
「お言葉ですが主任。矢島は失敗などしません。必ずやり遂げてみせます」
「なっ……」
誰よりも矢島が驚いて仰け反る。
「朝比奈検事、なにを……」
「この矢島の手にかかれば、この作戦もあっという間に完遂。おっしゃる通り、ワンクリックで済ませてみせます」
矢島は慌てて礼央を小声で制した。
「ちょっと、なんてことを言うんですか! 朝比奈さん」
「うるさい、黙ってろ」
低い声で鋭く言い放たれ、矢島は言葉を呑み込む。
「ほう、朝比奈検事。いつの間にサイ対課にご心酔あそばしたんだ? 特捜部は辞めたのか?」
上司に当たる主任検事に言われてムッと表情を変える礼央に、今度は矢島がズイッと前に身を乗り出した。
「そ、それではこれより、詳しくこの作戦の全貌をご説明いたします。なるべく噛み砕いてお話しいたしますが、聞き慣れない単語などでてきましたらご容赦ください。まず深月さんが繋いでくれた社内ネットワークを通じて、バックドアから経理システムに進入しますが、普通にアクセスすると即座に感知され、アラートが飛びます。そこでおとりとして、不審なログインを疑似発生させる通称デコイを発動。あえて偽の不正操作を検出させて、管理AIをそちらに誘導し、その隙に本命のログフォルダに潜る。あとは暗号通貨の送金履歴や経理システムの操作履歴などを取得します。以上ですが、なにかご不明な点は?」
「……ふん、まあいいだろう。口先でなら、なんとでも言える。成果を見せて、納得させてもらおう」
「はい、必ず」
矢島が主任検事に深々と頭を下げる。
最後に進行役のサイバー犯罪対策課の主任刑事が、声を張った。
「各自、作戦当日の動きと配置を確認せよ。以上、解散!」
ガヤガヤとざわめきが戻ってきて、ようやく矢島と礼央は肩の力を抜いた。



