この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「深月さん、今日はこれからの捜査方針を説明してもいいかな」
「はい、お願いします」

食事のあと、真剣な表情で切り出した矢島に、凜香も気を引き締める。

「まず、黒岩副社長には共犯者がいる。それは間違いない。我々はこれから黒岩副社長の横領と共犯者の悪事を暴き、証拠を手に入れる」

思わず凛香は、ゴクリと喉を鳴らした。
礼央も視線を伏せてじっと矢島の言葉に耳を傾けている。

「これはあくまで我々の推察に過ぎないけれど、おそらく黒岩副社長はその共犯者と一度社内で会った。副社長の横領をごまかすため、とかなんとか言って、その共犯者は副社長が社内ネットワークに繋いだパソコンにUSBメモリを差し込んだ可能性がある。そのUSBには、経理システムに侵入するバックドアをインストールするプログラムが仕込まれていた」
「バックドア、ですか?」
「そう、つまり裏口ってわけ。以降その共犯者はその裏口を使って、遠隔操作で経理システムに侵入。送金データの改ざん、帳簿のすり替え、ログの消去などを離れた場所で実行していたと思われる」

凛香は息を呑んで、しばし呆然とする。

「そんな……。では例えば自宅から深夜にこっそり操作して改ざんできる、ということですか?」
「その通りです」
「なんてこと……。犯人は安全な場所で、のうのうとそんなことを? 捕まえようがないんじゃ……」
「いや、捕まえてみせる」

矢島は力を込めてきっぱりと告げた。
そして凛香と真っすぐ視線を合わせる。

「それにはあなたの協力が必要です、深月さん」
「私に……なにができますか?」
「あなたのパソコンを社内ネットワークに繋いでほしい。それだけだ」
「……え? たったそれだけでいいのですか?」
「そう。あとは俺が全てやります。だけど、たったそれだけというほど容易なことだとは思わないでほしい。それを実行するのは、深夜のオフィスの地下駐車場だから」

凛香は目をしばたたかせて首をひねった。

「深夜の、地下駐車場で? どうしてそんな……」
「証拠を押さえるために経理システムに侵入すれば、犯人やセキュリティーシステムの管理人に気づかれる可能性がある。なるべく目立たないよう、深夜に行いたい。だけど社内ネットワークに繋ぐにはオフィスに行くしかない。それに黒岩の息がどこまでかかっているかわからない以上、警備員も欺く必要がある。見つかりにくい地下駐車場が最適だと判断しました。あなたには朝比奈検事が付き添います。本当なら、こんな危険なことには巻き込みたくない。だけどワンアクトの社用パソコンは、フェイスIDでロックを解除する必要がある。あなたのパソコンだけを借りるというわけにはいかない。時間をかけずに確実にログインするには、どうしてもあなた本人にお願いするしかないんだ」

苦渋の決断だったことがうかがえるような矢島の口調に、凛香は胸が痛む。
するとそれまで口を閉ざしていた礼央が、顔を上げて凛香を見つめた。

「必ず俺が守ると約束する。信じてほしい」

心の奥まで真っすぐ届くような熱い眼差しに、凛香も決意を固める。

「はい、信じます」

自分に言い聞かせるように、そう口にした。