この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「じゃあ深月さん、そろそろマンションまで送りますね」

デリバリーのランチを食べ終えると、矢島が凜香に声をかけた。

「いえ、ひとりで帰れますので」
「だめですよ。そんなの朝比奈さんが許しません。ね? 朝比奈検事」

礼央は「当然だ」と威圧的に矢島に言い放つ。

「ほら、睨まれちゃった。怒られないうちに行きましょう」

そう言われては仕方がない。
凜香は荷物をまとめて立ち上がる。

「それでは朝比奈さん、お先に失礼します」
「ああ、お疲れ様。戸締り気をつけて。ひとりで外に出かけないように。なにかあればすぐに連絡して。真夜中でも構わないから」

すると矢島が「長っ!」と呟いた。

「なんだと!?」
「いえ、なんでもございません! 深月さん、行きますよ」

そそくさと背を向けた矢島に続いて、凜香も部屋を出る。
マンションへと走らせる警察車両の中で、矢島はふと凜香の服装を見て目を細めた。

「今日の深月さん、雰囲気違いますね」
「あ、すっかり忘れてました。似合わないですよね、こんな女の子らしい服」
「いいえ、とってもすてきです。スーツ姿の深月さんはいかにも仕事ができる女性って感じでしたけど、今日はなんだかプライベートの素顔が垣間見えるようで可愛らしいです。って、こんなこと朝比奈さんに聞かれたらぶっ飛ばされる。いないよね?」

焦って後部シートを振り返る矢島に、凜香はクスクス笑う。

「矢島さんと朝比奈さんのやり取り、実は最近ハマってしまって。おもしろいですよね」
「どこが!? あの人、冗談通じないよね。目がマジなんだもん」
「ふふっ。矢島さん、これ、ドライブレコーダーついてませんか?」
「ついてる! やっべー!」
「チェックするかな? 朝比奈さん」
「しない、させない、ゆるさない」
「あはは! なんのポスターですか、それ」

笑いが止まらない凜香に、矢島はふと柔らかい笑みを浮かべた。

「深月さん、ごめんね」
「え? どうしたんですか、急に」
「君にはそんなふうに、いつも明るく笑っていてほしい。だけど今の状況では無理だよね。ごめん、力及ばずで」
「そんな、矢島さんが謝ることなんてなにもありません。私の会社のことでご迷惑をおかけしてるのに、こんなふうに気遣って色々手配してくださって、本当に感謝しています」
「君こそ、そんなふうに思う必要なんてない。悪いやつらのせいでこんな目に遭っているんだから。俺はね、罪のない人たちが犯罪に巻き込まれて、幸せを奪われてしまうのが許せないんだ。君のように心優しい人が涙を流すのが耐えられない。しかもあいつらは、君をこんなにも苦しめている自覚すらないんだ。私利私欲のためにどれだけ周りの人を傷つけているのかなんて、考えもしない。やつらは単にお金を奪っただけじゃない、たくさんの人の幸せも奪っている。それを思い知らせてやる」
「矢島さん……」

お調子者のイメージだった矢島が初めて見せる刑事の顔。
凜香はその熱い想いに胸を打たれていた。