鮎川社長はこれまで通りの生活で、二十四時間警護をつけることにした。
社長が自宅マンションに帰らないのは不自然で疑われやすい。
凛香だけなら、出張やプライベートの旅行などとして、数日間帰宅しなくてもさほど怪しまれずに済むと礼央は考えていた。
「身の回りのものは全てこちらで用意する。しばらくは我々が手配する部屋で過ごしてほしい」
凛香にそう言ってから、礼央は鮎川社長に電話をかけた。
鮎川は驚きつつ凛香の身を案じて、警察に任せると答える。
『秘書だけ出張するのもいきなり旅行に行くのも不自然ですので、彼女の実家の母親が体調を崩し、急遽帰省した、ということにしておきます。復帰時期も、母親の体調次第ということで、曖昧に』
「はい、よろしくお願いします」
『それから先ほど、全社員に向けて不正アクセス事件についての報告をメールで送りました。今後は社長である私が警察とやり取りすることも伝えたので、黒岩副社長は悔し紛れになにか行動を起こすかもしれません。深月さんに危害が及ばぬよう、くれぐれもよろしくお願いします』
「かしこまりました。責任を持って警護いたします」
礼央は最後に凛香に電話を代わる。
『仕事のことは気にせず。とにかく気をつけるんだよ』
「はい。ありがとうございます、社長」
電話越しの社長の言葉に、凛香は涙ぐんでいた。
その後は、早速凛香の滞在先を探す。
はじめにホテルを検討したが、不特定多数の人が自由に出入りできることや予算のこともあり、ウィークリーマンションの方がいいだろうとなった。
だが近隣で探すとどこも空きがなく、仕方なく郊外の部屋を借りようかと考えていると、矢島がスマートフォンを片手に妙にご機嫌な顔で提案する。
「朝比奈さんのマンション、隣の部屋が空いてるんですって」
は?と、礼央は怪訝な面持ちで矢島を見た。
「どういうことだ?」
「ですから、朝比奈さんのお隣なら安心でしょ? 夜中に深月さんになにかあってもすぐ助けられるし、署に来る時も一緒に車で来れば安全です」
「それは、まあ、そうだが」
「でしょ? じゃあ、決まりでいいですね」
「いや、その。深月さんは嫌なんじゃないか?」
ちらりと視線を向けると、少し離れたところに座っていた凛香が、怪訝そうに首をかしげる。
「深月さん、朝比奈さんのマンションの隣の部屋でもいいですか?」
「えっ、はい? 朝比奈さんのお隣の部屋に滞在するのですか?」
「そうです。いいところですよー。築浅でピカピカで、景色もバツグン。セキュリティーもしっかりしたマンションです」
まるで来たことがあるかのような口ぶりの矢島を、おい、と礼央は小声で止めた。
「だってほんとでしょ? 俺もあのマンション憧れてるんですよねー。家賃がもう少し下がれば引っ越そうって」
「げっ! 来るなよ?」
「行きますよ?」
「やめろ!」
小競り合いを始めると、あの、と凛香が控えめに声をかけてきた。
「私はどこでも構いません。皆さまにとってご都合のよい場所なら」
「じゃあ、決まり! 俺、早速手続きしてきますね」
矢島はなにやら嬉しそうに部屋を出ていった。
社長が自宅マンションに帰らないのは不自然で疑われやすい。
凛香だけなら、出張やプライベートの旅行などとして、数日間帰宅しなくてもさほど怪しまれずに済むと礼央は考えていた。
「身の回りのものは全てこちらで用意する。しばらくは我々が手配する部屋で過ごしてほしい」
凛香にそう言ってから、礼央は鮎川社長に電話をかけた。
鮎川は驚きつつ凛香の身を案じて、警察に任せると答える。
『秘書だけ出張するのもいきなり旅行に行くのも不自然ですので、彼女の実家の母親が体調を崩し、急遽帰省した、ということにしておきます。復帰時期も、母親の体調次第ということで、曖昧に』
「はい、よろしくお願いします」
『それから先ほど、全社員に向けて不正アクセス事件についての報告をメールで送りました。今後は社長である私が警察とやり取りすることも伝えたので、黒岩副社長は悔し紛れになにか行動を起こすかもしれません。深月さんに危害が及ばぬよう、くれぐれもよろしくお願いします』
「かしこまりました。責任を持って警護いたします」
礼央は最後に凛香に電話を代わる。
『仕事のことは気にせず。とにかく気をつけるんだよ』
「はい。ありがとうございます、社長」
電話越しの社長の言葉に、凛香は涙ぐんでいた。
その後は、早速凛香の滞在先を探す。
はじめにホテルを検討したが、不特定多数の人が自由に出入りできることや予算のこともあり、ウィークリーマンションの方がいいだろうとなった。
だが近隣で探すとどこも空きがなく、仕方なく郊外の部屋を借りようかと考えていると、矢島がスマートフォンを片手に妙にご機嫌な顔で提案する。
「朝比奈さんのマンション、隣の部屋が空いてるんですって」
は?と、礼央は怪訝な面持ちで矢島を見た。
「どういうことだ?」
「ですから、朝比奈さんのお隣なら安心でしょ? 夜中に深月さんになにかあってもすぐ助けられるし、署に来る時も一緒に車で来れば安全です」
「それは、まあ、そうだが」
「でしょ? じゃあ、決まりでいいですね」
「いや、その。深月さんは嫌なんじゃないか?」
ちらりと視線を向けると、少し離れたところに座っていた凛香が、怪訝そうに首をかしげる。
「深月さん、朝比奈さんのマンションの隣の部屋でもいいですか?」
「えっ、はい? 朝比奈さんのお隣の部屋に滞在するのですか?」
「そうです。いいところですよー。築浅でピカピカで、景色もバツグン。セキュリティーもしっかりしたマンションです」
まるで来たことがあるかのような口ぶりの矢島を、おい、と礼央は小声で止めた。
「だってほんとでしょ? 俺もあのマンション憧れてるんですよねー。家賃がもう少し下がれば引っ越そうって」
「げっ! 来るなよ?」
「行きますよ?」
「やめろ!」
小競り合いを始めると、あの、と凛香が控えめに声をかけてきた。
「私はどこでも構いません。皆さまにとってご都合のよい場所なら」
「じゃあ、決まり! 俺、早速手続きしてきますね」
矢島はなにやら嬉しそうに部屋を出ていった。



