この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

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朝比奈(あさひな)検事! お待ちしておりました!」

二十時半になろうとする頃。
連絡を受けて検察庁から品川警察署に駆けつけた礼央(れお)は、駐車場に出迎えに現れた矢島(やじま)に一瞥もくれず、車から降りると足早に通用口へと向かった。

「ご足労いただき、大変申し訳ありません!」

声を張ってせかせかとついてくる矢島に、前を向いたまま歩を緩めずため息をつく。

「お前な、一般市民に尾行に気づかれる刑事がどこにいる?」
「いや、それが……。もともと私はデスクワークばかりで現場に出るのに慣れていない上に、相手の女性がなかなか勘のいい方で……」
「言い訳するな、みっともない。いいか? お前には刑事を名乗る資格はない。これからはファーストネームとして、矢島けいじと名乗れ」
「あ、惜しいですね。俺、矢島英二(えいじ)なんですよ。ははは!」

ピタと足を止めると肩越しに振り返り、礼央は矢島を睨みつけた。
身長百七十二センチの矢島よりも十センチ高い位置からギロリと見下ろす。
ヒッ!と矢島が縮み上がった。

「笑えない冗談を二度と言ってみろ。闇に葬りさってやる」
「お、おやめください、検事殿。法に触れてはなりませぬ」
「安心しろ。俺がお前を葬っても、治外法権で不起訴処分だ」
「またまたそんな、ご冗談を……」

そう言って顔を上げた矢島は、冷め切った目つきの礼央に睨まれ、瞬時に顔を引きつらせた。

「しょ、承知しました。二度とこのような失態は犯しません」
「当然だ。その瞬間、首が飛ぶからな」
「ヒッ! は、はい」

ようやくおとなしくなった矢島を従え、礼央は応接室の前で立ち止まる。
矢島は礼央の前に回り込むと、咳払いをひとつしてからドアをノックした。