この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

しばらくは、三人それぞれカタカタとパソコンに向かっていたが、ふと顔を上げた凛香がクスッと笑みをもらす。
なんだ?と視線を追うと、礼央の隣で矢島が居眠りしていた。

「ったく、こいつはもう。おい、起きろ」

肩をゆすろうとすると、凛香が止める。

「朝比奈さん、寝かせてあげてください。お二人ともずっと働き詰めだったんでしょう?」
「そうですが、刑事が訪問先で居眠りなんて、あり得ない」
「今日だけは見逃してあげてください。矢島さん、うちの会社のために捜査してくださってるんですもの。お願いします」

凛香に頭を下げられては、頷くしかない。

「じゃあ、少しだけ」
「はい、ありがとうございます」

凛香はソファにあったクッションを手にして立ち上がると、矢島の背後に回り、後ろからそっと矢島の顔を覗き込んだ。

「え、なにを?」
「しーっ」

人差し指を唇に当てて見つめてくる凛香に、礼央はドギマギしながら口を閉ざす。
凛香は、ソファに背を預けて眠っている矢島の右頬にそっとクッションを当てると、ゆっくりと身体を右側に倒していった。
矢島はされるがままに横になり、クッションに頭を載せてスーッと寝息を立て始める。

「ふふっ、大成功」

凛香が礼央に小さくささやく。
小首をかしげて、にこっと笑いかけられ、思わず礼央はパッと視線をそらした。

(いかん。なにがいかんのかはわからないが、とにかくいかん)

己に言い聞かせ、無の境地でパソコンに向かった。