この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

社長との面会を終えると、凛香の案内でエレベーターホールへと向かう。
すると矢島が凛香に尋ねた。

「深月さん。もしよろしければ、社内を少し見学させてもらえませんか? 廊下を歩いてみるだけでもいいのですが」
「はい、かしこまりました。では共用スペースなどをご案内しますね」
「ありがとうございます」

こういうことをサラッと頼むのは、自分より矢島が適任だろうと、礼央は黙ったまま二人に従う。
来た時とは別のエレベーターに案内され、凛香が三階のボタンを押した。

「三階から五階は吹き抜けになっていて、ミーティングスペースや会議室、応接室などがあります。それからカフェテリアや食堂、リフレッシュエリアなども」
「へえ、オシャレですね。うちの職場とは大違いだ。おっ、見てください朝比奈さん。ガラス越しに吹き抜けのオフィスが見下ろせますよ」

バシバシと腕を叩いてくる矢島を「言われなくてもわかってる」と睨みつけた。
一面がガラスになったエレベーターが三階に着くと、凛香に促されてフロアを進む。

「ここは主に、部署の違う社員同士がミーティングするのに使っています。ご覧の通りオープンスペースなので込み入った話はできませんが、気軽にアイデアを出し合ったり和気あいあいとした雰囲気で話し合うにはもってこいです」
「本当だ。コーヒー片手に、なんだか楽しそうですね。丸テーブルだけじゃなく、ソファやカウンターの席もある」
「ええ。いい気分転換にもなりますよ」
「そうでしょうね。社内の雰囲気も明るく、風通しがよさそうなのもうかがえます」

パソコンを挟んで談笑している社員たちはリラックスした様子で、服装も女性は華やか、男性は爽やかな印象だ。

矢島の様子が余りに興味深そうに見えたのか、凛香が少し考えてから提案してきた。

「よろしければ、ランチはここの食堂でいかがですか?」
「えっ、部外者でも大丈夫なんですか?」
「はい。取引先の方とランチミーティングをしたりもしますので」
「それなら、ぜひ。ね、朝比奈さん」

矢島に言われて、礼央は「そうだな」と頷いた。

「かしこまりました。私もご一緒します。あ、でもさすがに時間が早すぎますよね。ランチは十一時からなので、それまで応接室でお待ちいただけますか? 今、空きを探しますね」

そう言うと凛香は、持っていたノートパソコンを手早く操作する。

「お待たせしました。ご案内します」

通された応接室は、手前に長テーブルと椅子、奥にソファセットが置いてあり、明るい日差しが射し込む綺麗な部屋だった。

「よろしければソファにどうぞ」

そう言って凛香は、空調を調節してブラインドを下ろす。

「今、コーヒーをお持ちしますね」
「いえ、そんな。どうぞお構いなく。深月さんもお仕事があるでしょうし」
「ここでやりますので大丈夫です。すみません、私がいない方がいいとは存じますが、お客様だけを部屋に残すわけにはいかなくて。社員が同席する決まりなので、端っこで作業させていただけますか?」
「もちろんです。端っこなんておっしゃらず、深月さんもソファにどうぞ」
「ありがとうございます」

凛香は三人分のコーヒーを淹れてローテーブルに置くと、礼央と矢島の向かい側に腰を下ろした。