この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「そんなに心配なら、声をかけてあげればよかったんじゃないですか?」

霞が関へ戻る車の中で、ハンドルを握ったまま矢島が口を開く。

「なんのことだ?」

窓の外を見ながらボソッと呟く礼央に、矢島は思わず苦笑いした。

「案外不器用なんですね、朝比奈検事って」
「なんだと!? 俺のどこが……」
「だってそうでしょ? 深月さんに強引なことをしてしまったって、反省してるのが丸わかりですよ」
「別に。そんなことを考えていたわけじゃない」
「じゃあなにを? どうやって謝ろうか、とか?」
「…………違う」
「その三秒の沈黙はなんですか?」
「うるさい! もう黙れ。だいたいお前、緊張感がなさすぎるぞ。今は勤務中だ。これからあの女の身元を照合するんだぞ? 気を引き締めろ」

一気にまくし立ててから、ふいとそっぽを向く。
そんな礼央に、矢島はまたしてもひょいと肩をすくめた。

霞が関の警視庁本庁舎に戻ると、早速今夜の動画をデータベースと照合する。

「もしヒットしなかったら、今日のところは解散でいいですか?」

腕時計に目を落としながら矢島が言う。
時刻は深夜零時を回るところだった。

そうだな、と頷きかけた礼央は、パッと表示が変わったモニターに目を見開いた。

「まさか……」

呆然としながら矢島が呟く。
映し出されていたのは、国際指名手配されている女の顔写真。

「これが、さっきホテルにいたあの女?」

矢島の口調は、信じられないと言わんばかりだった。

「整形を繰り返しているんだろう。見た目では別人だ。だが、骨格の大部分や歯並びで合致するとコンピュータが弾き出した。間違いない。さっきホテルにいた女は、国際犯罪組織『サンクチュアリ』の構成員だ」

ぴくりとも動けずにいる矢島の肩に手を置き、礼央は低い声で告げる。

「眠れない夜になるぞ、矢島」

何も言い返せないまま、矢島はゴクリと唾を飲み込んだ。