この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「……ん」

一時間ほど経ったところで、凛香がようやく目を覚ました。
状況が呑み込めないのか、天井を見上げたままぼんやりしている、

「気がつきましたか?」

矢島が声をかけて近づくと、凛香は慌てて身体を起こした。

「え? 矢島さん!」
「あ、そんなに急に起き上がったらだめです」

そう言って、凛香の背中に枕を二つ差し入れた。

「ありがとうございます」

枕に背を預けて、凛香は小さく息をつく。

「気分はいかがですか?」
「はい、随分よくなりました」
「ってことは、やっぱり具合が悪かったんですね。無理もないです」

すると副社長と愛人の様子を思い出したのか、凛香は表情を曇らせた。

「あの、副社長はどうなりましたか?」
「それなんですけど、朝比奈さんから……。ん? どうしたんですか、朝比奈検事。そんな遠くで」

矢島は、部屋の角まで下がって立っている礼央に首をひねる。

「いいから。お前が説明しろ」
「は? なんでまた……」
「いいから黙って説明しろ!」
「黙ったら説明できませんけど?」
「うるさい! 屁理屈をこねるな」

やれやれとため息をついてから、矢島は凛香に向き直った。

「深月さん、もし途中でまた気分が悪くなったら教えてくださいね」
「はい、わかりました」

矢島は頷くと、一つずつ説明を始める。
エレベーターホールで撮影した動画と、客室へと入っていく防犯カメラの映像を照合してみたが、データベースと一致した情報はなかったこと。
これから署に戻って、もっと大きなデータと照合してみること。
現時点では副社長は愛人と密会しているという認識にしかならないが、会社が押さえた客室をプライベートで利用していることから、会社の資金に手をつけた横領の疑いをかけられること。
今後は不正アクセスと合わせて、副社長の横領についても調べたいこと。
そして近々、社長にも直接事情を聴取したいことを。

「弊社の社長の鮎川に、ですか?」
「ええ。関連会社の不正アクセス事件については、あなたの口から社長にご説明くださったのですよね? 我々警察と地検特捜部が動き出したことも」
「はい、伝えてあります」
「それなら話は早い。一度直接社長とお話しさせていただけませんか? お忙しいと思いますので、我々がそちらに伺います。現場の様子も見ておきたいですし」
「わかりました。社長に伝えて、またご連絡いたします」
「ありがとうございます。今夜のところはこれで。深月さんのご自宅までお送りしますね。……で、よろしいですか? 朝比奈検事」

振り返って声をかける矢島に、礼央はぶっきらぼうに「ああ」と答える。

「やれやれ、難しい人だな。では行きましょうか、深月さん」
「はい」

それぞれ荷物をまとめると、三人揃って客室を出る。
フロントのスタッフに挨拶してから駐車場に行き、矢島の運転で凛香をマンションまで送り届けた。