この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

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「うーん、ザッと洗ってみた感じではヒットしませんね」

窓際のテーブルでパソコンを広げた矢島が、小さく呟く。
眠っている凛香を起こさぬよう、礼央も小声で返事をした。

「この女に前科はナシか。単なる副社長と愛人の密会で、事件性はないということか?」
「いえ、まだわかりません。このパソコンでは簡易的な照合しかできませんから。客室に入っていく防犯カメラの映像と合わせて、署に戻ってちゃんとしたデータベースにかけてみます。それにこれは俺の変な勘なんですけど、この女、どうも怪しいんですよね」

へえ、と礼央が顔を上げて矢島を見る。

「俺もそう思っていた。お前と気が合うなんて、気持ち悪い」
「なんですか、それ!」

思わず声を張る矢島を、礼央は「しっ!」と人差し指を立てて止めた。
ちらりと凛香の様子をうかがうと、変わらずよく眠っている。
矢島も凛香に目をやると、小さく呟いた。

「色々あって、疲れてたんですかね、深月さん」
「そうだな。あげく、こんな虫ずの走るオヤジのキスシーンなんか見せつけられて。しかも彼女にとっては副社長だ。吐き気がしただろうな」
「そうでしょうね。清廉潔白って感じですから、深月さんは」

そう言ってから、矢島はなにか言いたげに礼央に視線を送る。

「なんだ?」
「いえ、少し気になって」
「なにがだ」
「この映像……」

言いながら矢島は、エレベーターホールで礼央がこっそり撮影した動画を再生する。

「やーだ! って言ってるこの女、なにを見せつけられちゃったんですかねー? やたらとチュッて音が大きく拾われてますけど?」

礼央はジロリと矢島を睨みつけた。

「なにもしていない」
「まさか深月さん、それが原因でこうして寝込んじゃったんじゃ……」
「なにもしてないと言ってるだろう! フリをしただけだ」
「寸止めですか?」
「矢島、それ以上言ってみろ。力尽くで黙らせてやる」

殺気立つ礼央に、矢島はようやく首をすくめて口を閉ざした。