この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「結局これといった成果はありませんでしたね」

懇親会がつつがなく終わると、矢島が伸びをしながら立ち上がった。

「決めつけるな。見過ごしているだけで、実は密かになにかの動きをされていたかもしれない。署に戻って映像を見返すぞ」
「承知しました。スタッフが引き揚げたらバンケットホールに取り付けたカメラを撤収しに行きます」
「ああ」

その時だった。
それまでガヤガヤとした音声を拾っていたイヤホンから、はっきりとした凛香の声が聞こえてきた。

『深月です。矢島さん、聞こえますか?』

ハッとしてから、矢島は声を潜めて応答する。

「はい、矢島です。深月さん、どうしました?」
『実は、社長をホテルのロータリーで見送ってチェックアウトを済ませたところなのですが、ロビーに副社長がいるのを見つけまして』
「副社長? 深月さんの会社のですか?」
『そうです。今夜の懇親会には不参加のはずが、女性と一緒にロビーの隅のソファに座っていました。素知らぬ振りをしてエレベーターホールに向かい、そっと様子をうかがっていたら、副社長は女性をソファに残したままフロントに行きました。どうやら私がチェックアウトするのを待っていたようです』

礼央はすばやく矢島に視線を送ってから、胸元に着けたマイクのスイッチを押した。

「深月さん、朝比奈です。すぐそちらに向かいます。そのまま一階のエレベーターホールにいてください」
『わかりました』

返事を聞くなり、すぐさま身を翻して部屋を出た。