この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

やがて開始時間となり、ゲストがそれぞれ円卓に着くと、司会者がマイクを持って開式を宣言する。
主催者が挨拶してから、乾杯となった。

「乾杯!」

皆が笑顔でグラスを掲げ、しばらくは食事と歓談の時間となる。
凛香がいる円卓にも、次々とゲストが声をかけに行くのが見えた。

「深月さんって、ほんとにお綺麗ですよね。外国の人とも英語でペラペラ会話してるし。なんかよくわかんない英語まで操ってますよ」
「なんだ、よくわかんない英語って。あれはフランス語だ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。今のはイタリア語だな。簡単な最初の挨拶だけみたいだが」
「すげー! って言うか、朝比奈検事もわかるんですね」

目を輝かせる矢島に、礼央はため息をつく。

「俺にとってはお前の方が信じられん。国際犯罪組織に対しては、諸外国と連携して捜査をすることになる。英語もまともに話せないようでは、小馬鹿にされてマウントを取られるぞ」
「俺たちコンピュータオタクは、プログラミング言語が世界共通語なんですよ。英語より、いかにプログラミング言語を操れるかでマウント取ります」
「ああ、なるほど。ゲームみたいな世界ってわけか」

それにしても、と礼央はモニターの中の凛香を見ながら、心の中でひとりごつ。

(三百六十度アンテナを張っているかのようだな。背後から近づくゲストにも、すぐに振り返ってにこやかに対応している)

これなら矢島の尾行にも気づくわけだ、と納得した。

「今のところ、特に怪しい企業や人物も見当たりませんね」
「ああ。けど油断するな。とにかくゲストの顔と名前を頭の中に叩き込んでおけ」
「はい」

その後も滞りなく会は進み、プロジェクターを使ったなにやら難しい会議のような雰囲気になる。
あくびを噛み殺す矢島を小突きながら、礼央は最後までモニターを注意深く見つめていた。