「どうかなさいましたか? 社長殿。株主総会も無事に終わり、ホッとひと安心かと思いますが?」
もうすぐ六十歳になる副社長は、勧められるまでもなく社長室のソファにドサッと座り込んだ。
社長は立ち上がり、ソファの向かい側にゆっくりと腰を下ろす。
「株主総会では、黒岩副社長にも大変尽力いただきました。ありがとうございました」
「いやいや、なんの。私が睨みを効かせたから、社長殿に変な質問もされませんでしたね。はは!」
社長室に乾いた笑い声を上げる副社長を、凜香は壁際から黙ってじっと見つめていた。
そっと社長に視線を動かすと、落ち着いた表情ながら研ぎ澄まされているのがわかる。
「お気遣いありがとうございます、黒岩副社長。なにやら、総会前にも私に配慮して根回ししてくださったとか?」
「ああ、色んなツテであなたの評判を吹聴しておきましたよ。やり手の若きイケメン社長だとね」
「それは、警察にも、でしょうか?」
すると副社長の顔から笑みが消えた。
だがまたすぐにニヤリと不敵に笑う。
「あいにく警察にはツテがなくてね。善良な市民だから当然だろう?」
「ではなんと吹聴されたのですか? ワンアクトテクノロジーズの関連会社は片っ端から不正アクセス被害を受けている。社長に言ってもらちがあかないから敢えて黙っておいて、副社長が直々に警察に知らせたと?」
「だったらどうだというのだね? 何か問題でも? 社長には株主総会に集中してほしい。だから雑音は耳に入れないよう、副社長の私が引き受けたんだ。副社長は社長をサポートする、それが組織というものだろう? 互いに助け合って会社を支えているんだ。いい会社じゃないか、ワンアクトは。なあ?」
ふんぞり返る副社長に、社長は顔色ひとつ変えずに冷たい声色で言う。
「あなたのその一連の行動が非常に問題だということは、我が社の社員なら誰もがすぐに気づけますよ」
「……どういう意味だ?」
「答えはぜひ、他の社員に教えてもらってください。ああ、役員ではありませんよ。オフィスの社員に、です」
そう言って立ち上がった社長は、凜香に目配せする。
凜香は小さく頷くと、社長室のドアを開けた。
「ご足労いただきありがとうございました」と言う社長に続いて凜香が促す。
「副社長、お見送りいたします。どうぞ」
有無を言わさぬ二人の言葉に、副社長はムッとしたように立ち上がる。
「貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございました」
凜香は丁寧に頭を下げて見送った。
もうすぐ六十歳になる副社長は、勧められるまでもなく社長室のソファにドサッと座り込んだ。
社長は立ち上がり、ソファの向かい側にゆっくりと腰を下ろす。
「株主総会では、黒岩副社長にも大変尽力いただきました。ありがとうございました」
「いやいや、なんの。私が睨みを効かせたから、社長殿に変な質問もされませんでしたね。はは!」
社長室に乾いた笑い声を上げる副社長を、凜香は壁際から黙ってじっと見つめていた。
そっと社長に視線を動かすと、落ち着いた表情ながら研ぎ澄まされているのがわかる。
「お気遣いありがとうございます、黒岩副社長。なにやら、総会前にも私に配慮して根回ししてくださったとか?」
「ああ、色んなツテであなたの評判を吹聴しておきましたよ。やり手の若きイケメン社長だとね」
「それは、警察にも、でしょうか?」
すると副社長の顔から笑みが消えた。
だがまたすぐにニヤリと不敵に笑う。
「あいにく警察にはツテがなくてね。善良な市民だから当然だろう?」
「ではなんと吹聴されたのですか? ワンアクトテクノロジーズの関連会社は片っ端から不正アクセス被害を受けている。社長に言ってもらちがあかないから敢えて黙っておいて、副社長が直々に警察に知らせたと?」
「だったらどうだというのだね? 何か問題でも? 社長には株主総会に集中してほしい。だから雑音は耳に入れないよう、副社長の私が引き受けたんだ。副社長は社長をサポートする、それが組織というものだろう? 互いに助け合って会社を支えているんだ。いい会社じゃないか、ワンアクトは。なあ?」
ふんぞり返る副社長に、社長は顔色ひとつ変えずに冷たい声色で言う。
「あなたのその一連の行動が非常に問題だということは、我が社の社員なら誰もがすぐに気づけますよ」
「……どういう意味だ?」
「答えはぜひ、他の社員に教えてもらってください。ああ、役員ではありませんよ。オフィスの社員に、です」
そう言って立ち上がった社長は、凜香に目配せする。
凜香は小さく頷くと、社長室のドアを開けた。
「ご足労いただきありがとうございました」と言う社長に続いて凜香が促す。
「副社長、お見送りいたします。どうぞ」
有無を言わさぬ二人の言葉に、副社長はムッとしたように立ち上がる。
「貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございました」
凜香は丁寧に頭を下げて見送った。



