この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「どういうこと?」

凜香が差し出したレポートに目を落とし、社長は眉根を寄せる。
そこには各企業ごとに、いつ誰が不正アクセスに気づき、どうやって本社と連絡を取ったのかを、時系列で表記してあった。
社長は自分に言い聞かせるようにゆっくりと話を続ける。

「各企業が不正アクセスに気づいてすぐ、うちの情報セキュリティー管理部に報告した。それをたまたまその場にやって来た副社長が聞いて、自分から社長に伝えておくと言った。なのに私は知らないまま、警察が動き出した。各企業の担当者は、警察からの連絡を待っている状況。その後の被害はない。つまりそういうこと?」
「はい、左様でございます」
「昨日、たまたま君が警察の尾行に気づいたから今こうして私の知るところとなったけど、でなければずっとこの状況だったってことか。酷いありさまだ」

ふうと息を吐いて、社長はデスクにレポート用紙を置く。
両肘をデスクに載せて手を組むと、じっと考えをまとめてから顔を上げた。

「副社長をただちにここへ」
「かしこまりました」

何かを覚悟したような表情の社長に、凜香も唇を引き結んで頷いた。