この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】

「え? その件なら、社長に報告済みのはずですが……」

ここでも意外な答えが返ってきて、凜香は困惑する。
四十代の部長に、慎重に質問を重ねた。

「社長にはどのような形で報告を?」
「ちょうど各企業から不正アクセスの被害にあったという電話が相次いだ時、副社長がたまたまこのオフィスにいらしたんです。株主総会での質疑応答の件で聞きたいことがあると。それで我々も、たった今こういう報告を受けましたと電話の内容をお話ししました。そうしたら副社長、自分から社長に伝えておくと。今、総会に向けて社長は大変な時期だから、この件に関しては今後副社長の私を通しなさいとおっしゃって」
「それからなにか動きはありましたか?」
「はい。副社長が、警察に届け出たからあとは警察からの指示を待つようにと。各企業へも、同じように電話で伝えました。それ以降はなにもありません。被害もそのあとは報告を受けていません」
「わかりました。お時間いただいて申し訳ありません。ありがとうございました」

お辞儀をして話を終えると、部長は少し首をひねって口調を変えた。

「それはいいけど、どうして深月さんがこんなこと聞いてくるの? 社長秘書だから当然知ってると思ってたよ」
「それは、わたくしの至らなさが原因でして。総会にばかり気が向いて、他のことが疎かになっていました。改めて現状を把握して対処していきます。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「そう、わかった。警察からなにか連絡があったら教えてください。こちらからも、今後は深月さんにも報告するようにします」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」

もう一度深々と頭を下げてから、急いで秘書室に戻り、レポートをまとめる。
プリントアウトすると、すぐさま社長室に向かった。