突然鼓膜を揺らす、もう聞き慣れてしまったおぞましい笑い声。
 はっとして顔を上げると──一人の小さな女の子が、悠然と佇んでいた。

「っ!」

 力を振り絞り、私は後ろに仰け反る。でも、女の子は私には目もくれず、ただ滔々と愛佳へ目線を注いでいた。

「逃げて……愛佳っ!」

 口をついて出たのはそんなお粗末な叫びだった。

 ただ、私の声に反応する素振りすら見せない愛佳は、虚空から目線を滑らせ、傍らに立つ鬼をぼんやりと見上げる。

「……」

「くすくす……」

 愛佳は鬼を目の前にしても、身動ぎ一つしないどころか、表情すら一切変わっていないように見えた。
 まるで、全ての感情が奪われたような絶望感をまとっていて。

「まなか……?」

 今にも砕け散ってしまいそうな危うさに、私は手を伸ばすのを躊躇してしまった。

 暫しの間、愛佳と鬼は静寂を守り抜くように見つめ合っていた。
 けれど──愛佳が鬼へ指先を伸ばしたのを皮切りに、平静とした時間は瓦解する。

「──連れて、行って。あの子達の……皆のところに……」

 哀しみに満ち溢れた声音に、鬼は途端にギラついた眼光で愛佳を視界に捉えた。

「きゃはっ! みーんな、いっしょ!」

 歓喜の産声が体育館に響き渡り、鬼は愛佳の体に飛びかかる。

 その、ほんの僅かな刹那にも満たない間──愛佳はゆったりと瞼を閉じ、鬼を受け入れるかのように両手を広げた。

 ぼすん、と乾いた音と共に、愛佳はその場から消え失せた。

「なんで……」

 自分から失格を望んだように見えた。いつもの、ちょっぴり傲慢で、それでいて気高い愛佳の面影は、どこにもなかった。