脳内を駆け巡る茉美との思い出。表情、仕草、言動。コマ送りのように次々と湧き出てくる日常のワンシーンが、私を席巻する。

 ずっと一緒にいた訳じゃない。それでも一年余りを共に過ごした大切なクラスメイト。
 それが、瞬く間に崩壊する音が、聞こえた。

 茉美が失格……それなら、美月と愛音は。二人は無事なの!?

「茉美、は……美月達と一緒にいた……はず」

「マジかよ。早く探しに……」

「美月……愛音っ!」

 得体の知れない圧迫感に駆られてその場から走り出す。どこにいるかなんて分からない。ただ、一刻も早く無事を確認したい。追われているのなら助けたい。

 ──戦慄という感情に占領された私の思考は、無意識に体を突き動かした。

 階段を駆け上り、二階の廊下を走る。もう鬼なんて気にしていられない。ただ、二人を失うのが怖くて、辛くて、嫌で堪らなくて──

「美月ぃー! 愛音ぇー!」

 全身から力が抜けるくらいの声量の叫びが校舎中に響き渡る。直後、しんと静まり返り、異質な空気が漂う。

 ──叫んだのは、確実に命取りだった。

「くすくす……きゃははっ!」

 背後から聞こえた甲高い笑い声。ぞくり、と嫌な汗が全身を伝う。
 振り返ると、女の子が悠然と佇んでいた。美月でも愛音でもない……小さな、鬼。

「っ……!」

 しまった。私、馬鹿なことした。感情に任せて叫ぶなんて……自殺行為だ!
 女の子の視線が私を捕える。歪に捻じ曲がったような狂気に満ちた瞳。

「っはぁ、おい、羽田!」

「ひ……しょ」

「何してんだお前! チッ……おい鬼! こっちだ!」

 追いかけて来てくれた飛翔は、鬼に向かって挑発を飛ばす。ぐるりと異様な速さで鬼は飛翔の方を向き、そして床を蹴り上げた。

「飛翔!」

 私は思わず叫ぶ。ターゲットを飛翔に変えた鬼は、腕を伸ばし、飛翔に飛びかかる。

 嫌だ……っ!

「逃げて! 飛翔!」

 どうしてかその場から動こうとしない飛翔。立ちすくんで動けない私の目が映すのは、鬼の手が飛翔に触れる……その寸前。

 けれど、飛翔はすんでのところで鬼を躱し、床に倒れた鬼を全力で蹴り上げた。